2013年12月15日日曜日

取締役の基礎知識

「取締役の基礎知識」という大そうなタイトルを付けたが、取締役に関わる会社法関係の薄く広いセミナーを受講してきただけである。気づいた点をメモしておく。



①取締役の責任と経営判断原則

取締役の経営判断は、不確実な状況の下で迅速にこれを行う必要があることなどから、広い裁量が認められるべきであると考えられている。これを「経営判断の原則」という。
取締役の職務執行については
  1. 取締役等の行為当時の状況に照らして合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか(判断の過程面)
  2. その状況と取締役等に要求される能力水準に照らして不合理な判断がなされたかったか(判断の内容面)
の2つを基準に評価が行われるべきであり、事後的、結果論的な評価がなされてはならないという基準が最近の下級審裁判例における確定的な判断基準だと考えられていた。ところが、近年の最高裁判決(平成22年アパマンショップ事件)では、経営判断の過程の合理性より経営判断の内容の合理性に重点を置いた判断が示されており、注目されている。


②取締役の定款による資格制限

定款で取締役の資格制限を行うことは、合理的な内容の制限であれば適法であるとされている(例:日本人限る)。ただし、公開会社においては、取締役の資格を株主に限ることはできない(会社法331条)。


③代表取締役の権限

対外的に会社を代表する機関が代表取締役であり、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する。この権限に制限を加えたとしても善意の第三者に対抗することはできない(会社法349条)。
例えば、次のようなケース
  1. 一定金額以上の借入については取締役会の承認を要すると内規で定めていた
  2. その会社の代表取締役が内規で定めた制限を超えた取引を行った
当該制約を知らない取引の相手方に対して、会社はその取引の無効を主張できるのかというと、できないということ。


④取締役の善管注意義務と忠実義務

取締役はその職務の遂行においては善良な管理者としての注意義務を負い(善管注意義務:民法644条)、法令及び定款の規定および株主総会の決議を遵守し、会社のために忠実にその職務を行う義務を負う(忠実義務:会社法355条)。この善管注意義務と忠実義務は同じであるという同質説が通説であり、いずれも、法律の範囲内で会社のために注意を尽くして働きなさいという趣旨である。


⑤利益相反取引回避義務

取締役が自ら当事者として、または他人の代理人・代表者等として会社と取引をする場合には、会社の利益を害するおそれがある。そこで、取締役会設置会社では、このような利益相反取引をする場合には、その取引について重要な事実を開示して取締役会の承認を得なければならない(会社法356条365条)。企業グループの中では、取締役が子会社の代表取締役を兼務する例が少なくなく、兼務先との関係で利益相反ではないか、ということを常に意識する必要がある。
なお、100%親子会社間において取締役を兼務する場合は、実質的に利益相反関係に立たないので、利益相反取引に関する規制の適用はないとされている。100%子会社にするメリットは、こんなところにもあるのだ。


⑥取締役会の招集通知

取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間前(定款で短縮可能)までに、各取締役および各監査役に対して招集通知を発しなければならない(会社法368条
招集通知の方法は、口頭で行うことも差し支えないが、実務上は書面または電子メールで行うことが多い。招集通知に漏れがある場合、瑕疵ある招集手続となり、関係する取締役会決議の無効原因となる。通知に漏れがあった対象者が実際に取締役会に出席し、異議を述べなかったときは、瑕疵は治癒するが、通知を受けないために欠席した取締役が後にその決議に同意しても、決議の瑕疵は治癒されない、というのが一般的見解である。招集通知に漏れがあった場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、瑕疵は決議の効力に影響がないとする判例はあるが、これには否定的な見解も多く、安易な取扱いは避けるべきであろう。
このように、取締役会の招集通知を失念すると後々大変なことになる可能性があるので、注意して運営を行うべきである。


<参考>
裁判所における「経営判断の原則」の判断基準の変化 (川井総合法律事務所 弁護士・ニューヨ
ーク州弁護士 川井信之 )
取締役の利益相反取引について (弁護士 草地邦晴) 

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