2021年7月21日水曜日

持株会のグループ会社展開

上場会社であれば福利厚生制度として「従業員持株会」を保有、運営している会社が多いと思うが、今回はそれをテーマに、実際対応した制度整備について書いてみたい。

持株会の会員対象は、自社の社員のみ、と限定している会社もあるが、中にはグループ会社の従業員も対象としている会社もある。

ケースとして、福利厚生担当者が「買収した会社にも当社の持株会制度を導入せよ」と言われた際に検討すべき事項、整備事項についてまとめておく。


1.従業員持株会とは

一般的に、従業員持株会とは、証券取引所に上場している自社の株式を毎月一定額で買付を行う従業員の福利厚生制度のことである。

少額で一定額を積み立てるように買い付けるため、社員の資産づくりの一つとされている。社員が給与から拠出する金額に加えて、会社から「奨励金」が付与されることが一般的で、付与率は拠出金額の5%~10%としている会社が多い。


<持株会運営のイメージ図>

持株会運営のイメージ図

※今回は、持株会の仕組みではなく、加入制度の整備について焦点を当てるため、持株会制度の仕組み解説については、他のサイトに譲り、今回は次の「グループ会社が加入する際の整備事項」について焦点を当てる。


2.グループ会社の持株会加入制度の整備に必要な事項

会社が給与天引きを自由にでき、かつ奨励金が不要な「役員」を対象とするのであれば、天引きした給与を指定された持株会口座に振込むだけで良いが、従業員の福利厚生となると色々と手続きが必要となる。大きく分けて、以下の3点が必要。


(a)拠出金の給与天引き制度の整備

従業員持株会の会員の拠出金は、給与天引きで行われることが一般的だが、労働基準法第24条(賃金の支払)により、社会保険料等、法令に定められたもの以外は、会社は給与天引きすることができない。従って、持株会拠出金の天引きを実現するには、労働組合又は労働者の代表者と持株会拠出金の給与天引きを行う「労使協定」を締結する必要がある。


(b)投資「奨励金」付与根拠の整備

持株会の会員は1口に対して、5~10%の奨励金が付与されることが一般的だが、この付与根拠を定める必要がある。実務的には①持株会と会社で「覚書」を交わす、②「従業員持株会規程」を新たに定める、③「賃金規程」に盛り込む、の3パターンが考えらえるが、顧問社労士曰く、実務的には①の覚書での対応が多い。

なお、覚書のひな形は、持株会の幹事証券会社に言えば、提供してもらえる。


(c)給与システムの整備

給与の支給項目に「持株会奨励金」、控除項目に「持株会積立金」等の項目を設けて、加給及び控除できるよう給与システムを改修する必要がある。なお、項目の名称については、特に制限はなく、支給項目については課税項目になるのであれば「その他支給」等でも実務上は問題ない。


(d)持株会規約の変更

持株会によっては、会員の自社(上場会社)の社員に限定している場合があるので、その場合はグループ会社の社員に対象を広げる必要がある。規約変更のためには、通常は理事会開催が必須なので、理事会開催の手続が必要になる。加えて、持株会の名称も、よくある「自社株投資会」等では、グループ会社の社員も対象とした場合、「自社」が何に該当するのか分かりずらいため、該当する上場企業名を会の名称に入れるのが良いだろう。


事業承継に活かす 従業員持株会の法務・税務(第3版)

事業承継に活かす 従業員持株会の法務・税務(第3版)


2021年3月12日金曜日

社会保険で押さえておきたい基本

社会保険の基本を勉強してきた。自分なりに今までよくわかっていなかったことをざっとまとめたので、メモとして残しておきたい。

※内容はすべて記載時点の法令等を根拠としています。最新の内容については、都度調べて下さい。


1.健康保険・厚生年金保険の保険料徴収の仕組み


①保険料の計算
・月の初日入社の人も、月末入社の人も同じ1か月として計算する(日割り計算はしない)
②保険料の徴収
・被保険者になった月から被保険者でなくなった月の「前月分」まで徴収する
・当月分の保険料は「翌月支払う給料」から徴収する
③資格取得月と喪失月の保険料
・保険料は取得月にかかるが、喪失月にはかからない(退職日の翌日が喪失日)

2.月末退職者の保険料にかかる留意点

・資格喪失日が退職日の「翌日」=月末退職者の資格喪失日は「翌月1日」
・保険料の徴収期間:資格喪失日の属する月の前月分まで
 →退職日が1日異なるだけで、保険料の徴収期間が変わることに注意(通常は月末退職だが、イレギュラーとして月中の退職者が発生することもある)

<事例> 

退職者 

退職日 

資格喪失日 

保険料徴収期間 

徴収方法 

退職後の健保・年金 

Aさん 

9/30 

10/1 

9月分まで 

月給料から2か月分天引き (8月分、9月分) 

10/1加入 

Bさん 

9/29 

9/30 

8月分まで 

9月給料から天引き(8月分) 

9/30加入 


この事例の場合、会社が徴収する保険料は、月末退職のAさんの場合は9月給料で8月、9月分の保険料を徴収するが、9月29日退職のBさんの場合は、9月給料から8月分の保険料のみ徴収する。 

 
3.退職(死亡含む)した場合の会社の手続

「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」に健康保険被保険者証を添付して年金事務所(又は日本年金事務センター)に提出。
※健康保険組合がある場合は、健康保険は健康保険組合に提出する。 

4.退職後の健康保険手続き 

退職後の健康保険は4パターン(①再就職先で加入 ②任意継続被保険者 ③家族の被扶養者 ④国民健康保険 )に分かれる。 ※会社を退職=健康保険の被保険者資格を喪失

■ 再就職する場合・・・①再就職先の健康保険に強制加入 

■ 再就職しない場合

選択 

任意継続被保険 

(健康保険組合) 

家族の被扶養者 

国民健康保険 ※2 

条件 

勤務期間が2カ月以上 

年収基準額 ※1 

60歳未満:130万円未満 

60歳以上:180万円未満 

日本国内に住所のある人で、ほかの健康保険に加入していないこと 

被保険者になれる期間 

最長2年間 

被扶養者として認定されている期間 

他の健康保険に加入していない期間 

保険料 

退職時の標準報酬月額の保険料(会社負担が無くなるため在職時の約2倍) 

不要 

市区町村によって異なる 

医療費負担 

共通:原則3割(70歳以上は原則2割) 

  

※1.健康保険は向こう1年間の収入見込みによって被扶養者となれるかどうかを判断する(年間収入で判断する所得税法上とは異なる)。そのため、退職した後の収入が基準額の範囲内であれば、被扶養者となれる。家族の被扶養者となる場合は、先方の健康保険組合と相談してもらう 

※2国民健康保険は「扶養」という考え方はなく、加入者1人ひとりが被保険者となる。そのため、退職者に扶養者がいる場合は、任意継続保険が有利。 



5.退職後の厚生年金保険手続き


退職後の厚生年金保険は4パターンに分かれる。①再就職先で加入 ②国民年金に加入 ③配偶者の被扶養者 ④年金を受給(受給年齢に達している場合) 

<4パターン>

再就職先で加入 

国民年金に加入 

再就職先の会社に年金手帳を提出して加入する。但し、離職期間が1か月以上生じる場合は、離職期間は国民年金保険に自分で加入する必要がある。 

 

退職して厚生年金の被保険者でなくなると、20歳以上60歳未満の人は国民年金に加入する手続きが必要。60歳未満の被扶養配偶者も、国民年金第3号被保険者から第1号被保険者に変わるため、保険料を納めなければならない。手続きは、退職後14日以内に市区町村の国民年金担当窓口に行く。 (保険料:1人月額16,540円/令和2年) 

配偶者の被扶養者 

年金を受給(受給年齢に達している場合 

配偶者が第2被保険者の場合、配偶者の扶養に入ることで、第3号被保険者(自分で保険料を払わず配偶者が加入する年金制度が保険料を負担)になることが可能。 

 

退職者が年金受給年齢に達している場合(老齢基礎年金は原則として65歳から支給)は、市区町村の国民年金担当窓口に年金手帳を提出して年金受給の開始となる。但し、退職者が失業手当を受給する場合は、失業手当が所得となり年金受給額が減額されるため、その場合は年金担当窓口で相談してもらう。 



6.退職後の雇用保険(資格喪失)手続き

<手続きの流れ>
①「離職証明書」を会社が作成し、退職者に渡す。その内容を退職者が確認の上、記名、押印をして会社に返却してもらう。
②「雇用保険被保険者資格喪失届」を会社が作成し、①で記名押印済の「離職証明書」を会社からハローワークへ提出する。
③ハローワークから会社に「離職票-1」「離職票-2」が届く。
④会社から退職者に「離職票-1」「離職票-2」を郵送する。(「雇用保険被保険者証」を渡していない場合は、このタイミングで郵送する)
⑤退職者が「離職票-1」「離職票-2」を持参してハローワークに提出する。
 
 
7.雇用保険(求職者給付における基本手当)の給付を受けられる条件

離職日以前2年間に被保険者期間が通算して12カ月以上あること(特定受給資格者※1や、特定理由離職者※2は、離職日以前1年間に6カ月以上あれば受けられる例外あり) 
 

※1 特定受給資格者 

離職理由が倒産や会社都合の解雇等、再就職の準備をする時間的な余裕がなく離職を余儀なくされた人 

※2 特定理由離職者 

期間の定めのある労働契約が更新されなかったこと、その他やむを得ない理由により離職した人