2011年12月3日土曜日

親友と

僕が高校1年の時から自宅で飼っている愛犬が危篤状態にある。最近調子が悪いという話は聞いていたが、先月実家を訪れた際は、普通に散歩できたし、エサもガツガツ食べていたので、大したことないと思っていた。それだが昨晩、危篤状態にあると親からメールが入った。

今日、僕は早速実家に帰った。いつもは帰省すると真っ先に部外者と間違えて吠えるのが定番だったのだが、今日は何の声もない。グッタリと犬用ベッドにもたれたまま、ピクリとも動かない彼がそこに居た。目だけ動かして僕に何かを訴えようとしている。呼びかけるとプルプル震えながら起き上がってシッポを振ってくれた。彼は、かなり痩せていた。ここ数日は食欲が全くなく、無理に食べさせても嘔吐してしまうらしい。いつもは空のエサ箱が、今日はドッグフードで一杯だった。

親曰く、動物病院に連れて行ったが、獣医からはここから先は延命治療になると告げられたそうだ。人間の年齢では80歳以上。これまでほとんど病気すらしたことのない元気な犬だったが、もう胃がダメなのだ。親は、自宅で最期まで看取ることに決めた。もって、あと数日だそうだ。

彼とは、もう10年以上の付き合いになる。子犬の頃から自宅周辺はあちこち一緒に散歩に行ったし、夜はよくランニングに付き合ってもらった。直線の道に出ると全速力で競争したものだ。僕が自動車免許を取ってから初めて一緒にドライブしたのも彼だ。途中でゲロを吐かれた思い出がある。

彼とはよく話をした。話をしたといっても、僕が一方的に話しかけるだけなのだが。特に覚えているのが、大学受験に失敗した時だ。志望していた大学に落ちて凹む僕の目をジッと見て、あの時は励ましてくれているような気がした。それ以外にも、何か失敗したとき、失恋したときは、彼によく話した。彼は黙って話を聞いてくれた。

社会人になって実家を出るまで、毎日顔を合わせていた彼は、ただのペットではなく、もはや親友と呼べる存在だ。その彼と、もうすぐで別れることになる。涙が止まらない。

一応持って帰ってきたチョコレートを見せると、喜んだようにシッポを振る。この数日は水以外は食べようとしなかったらしく、親も驚いていた。許可をもらった上で口元に持って行くと美味しそうに食べた。それを皮切りに他のエサもパクパク食べ始めて、家族は皆大喜びだ。気持ちが通じたのだろうか。この勢いで回復してくれたら良いのだが・・・。

今日は、玄関の彼の近くで寝ることにした。いや、今晩は彼と思い出を語りつくすことにしようか。


<追記>

上記エントリーを書いた数週間後、彼が亡くなったという連絡があった。電話越しに母は大泣きしていたが、意外にも僕は冷静だった。そうか、遂に亡くなってしまったか、と。

翌日が休日だったこともあり、僕は実家まで戻った。ドアを開けると、いつもの玄関で、横たわった彼の姿があった。それを見た瞬間、涙が止まらなくなった。

「ごめんな、ごめんな、最後まで一緒にいてやれなくてごめんな」と僕は泣きながら謝った。触り慣れた彼の顔を撫でながら、泣いた。もう二度と彼と会えないと思うと、それだけで胸がつらくて、余計に涙が出てきた。愛犬との別れが、これほどつらいとは想像していなかった。

思えば、最後の半月全くエサを食べていなかったにもかかわらず、僕がたまたま持って帰ってきたチョコレートを見て「欲しい」と訴えるような目をして、与えるともぐもぐ食べていたのは、元気だと安心させたかったからではないかな。普段からチョコレートなんて食べる犬ではなかったから。最後まで気を遣わせてしまったか。頼りない兄で悪かった。もう少ししっかりした男になるよ。

翌日、彼は火葬された。今でも、彼の写真が僕の部屋に飾ってある。

冥福を祈る。



「はじめてのともだち」

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