2010年5月7日金曜日

M&A新世紀 ターゲットはトヨタか、新日鐵か?


邦銀と外銀のM&A部門で実績を重ねてきたという、リアル鷲津政彦(ハゲタカ)のような筆者によるM&Aの解説本を読んだ。
M&Aの本によくある株式会社のデューデリジェンスの数式等(少し書いてある)がメインテーマではなく、2000年代に起こったM&Aの事件を中心に解説している。
かなりわかりやすく、かつ興味を持たせるような書き方をしているので、一気に読みきってしまった。M&Aの事件に興味がある人はもちろん、上場会社で自社の株主構成を東洋経済とか日経リサーチに提供している株式部門の人は一読の価値はあると思う。
読んでいて引っかかった点が3点あったので書いておくと…

①三角合併について
会社法の施行による合併対価の柔軟化の一つとして三角合併が可能となった。これにより外資企業が時価総額にものを言わせて買収してくるのではないかと、確かに当時はそんな議論があった。しかし、筆者は「そんなことはない」と言い切っている。そして今日、現に外資による三角合併はほとんど行われていない。なぜか。「買収カレンシー」として海外の株式は好ましくないからだ。無理強いて割り当てをしても外国の株式など日本人の株主はすぐに市場で売却して(海外上場の株式をどう日本で売却するのかという問題は残るが…)、株価の下落を招く懸念もあるということだった。
確かに筆者の言うこれも一理あるだろうが、敵対的買収として三角合併が使われないのには、もう一つ理由がある。
それは三角合併といえど所詮は「合併」なので消滅会社は株主総会の決議が必要で、存続会社と消滅会社の間で合併契約を締結する必要があるからだ。つまり敵対的に三角合併で買収をやろうと思ったら、その前に対象会社の特別決議を取れるくらいの株式を取得しておく必要があり、「三角」合併するのは実質的に経営権を取得された後の手続に過ぎない。法的には、三角合併はそれだけでは敵対的買収には使えないのだ。
(参考条文:会社法782条783条

②敵対的買収というのは誰に対して敵対的なのか
「敵対的買収」とは経営陣に対して敵対的に行われる買収だ、と解説されている。これはこれで100%間違いないのだが、僕なりに補足しておくと、上場企業が導入している敵対的買収防衛策の「敵対的」は、実はこの意味ではない。過去の裁判例により防衛策が経営者の保身だとみなされると、余程酷い買収者(グリーンメーラーとか)でない限り、高い確率で裁判所により防衛策が指し止めされてしまうからだ。だから、敵対的買収防衛策の敵対的の意味は「株主にとって敵対的」ということなのだ。株主様の会社の価値を毀損しようとする悪い買収者が現れたときは株主様の会社の企業価値を守るため、防衛策というトラップを発動させることがあります・・・敵対的買収防衛策を導入した企業のプレスリリースには大体こんなことが書いてある。
なお本書ではブルドックソース対スティール・パートナーズの買収合戦についても取り上げられていたが、東京高裁の判決でスティールは「濫用的買収者」と認められたことも付け加えておきたい。

③ブルドックソースのどこが非効率だったのか
最後にもう一つ。ブルドックソースの非効率な貸借対照表を見たリヒテンシュタイン氏(スティール代表)は「何やってんだ!この会社!」と叫んだのではないだろうか、と書いてあったが、これはちょっと違うと思う。
おそらくブルドックソースの財務分析をしたリヒテンシュタイン氏は
「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!」
と金脈か油田でも掘り当てたかのごとく大喜びしたに違いない。
というのも、ブルドックに目をつける以前、剰余金をたんまり溜め込んでいたユシロ化学やソトーに対してTOBを仕掛け、両社から大幅増配を引き出してボロ儲けしたという経緯があるからだ。また、明星食品にも同様にTOBを仕掛けて、今度はホワイトナイトの対抗TOBを引き出し大儲けした。
きっと、ブルドックもTOBで揺さぶれば剰余金を使った大幅増配で株価を吊り上げてるか、ホワイトナイトを探してきて対抗TOBを打たせるかで回避するに違いない、と思ったはずだ。その結果はご存知の通りだが・・・。

"We need to educate the management of the Japanese companies."
Warren G. Lichtenstein (2007年6月の記者会見にて)

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