この本は、どう頑張っても全国で4000冊以上は売れないと思われる本(4000という数字は全国の上場企業数から想定)。なぜなら本書の内容が、上場している会社の狭い狭い株式実務に限定されるからだ。昨年の12月に公表された独立役員の届出書やそれに伴うコーポレートガバナンス報告書の記載内容等がテーマで、Q&Aなども交えて詳しく解説している。ただ、大半の部分は証券取引所からの通達やガイドラインを読めば分かるので、購入者は4000人よりもっと少ないかもしれない。
独立役員とは「一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役又は社外監査役」のことで、昨年の企業統治研究会の報告を受けて上場会社へ設置が義務付けられることとなった。
当初は全上場会社に社外取締役の設置を義務付けようとしていたようだが、それは現状の日本のガバナンス体制には厳しすぎるとの声が強かったため、その代わりに「独立役員」の設置を義務付けることで決着をつけた。会社法335条3項により監査役会を設置している会社は半数が社外監査役(最低でも2人いる)なので、「独立役員」を揃えることは難しくないだろうと考えていたが、子会社で上場している企業の社外監査役に親会社の業務執行者(独立役員の独立性要件を満たさない)が多いという問題が発生し、1年間の猶予期間を設けることになった。
で、こんなブログを読んでいる人は既によく知っていると思うが、独立役員届出書にせよ、それを受けたコーポレート・ガバナンス報告書にせよ、条件によっては、3月末までに証券取引所に直接相談に行かねばならない部分がある。そこの部分を明確にするためにも僕はわざわざ本書を購入した。裏技的なことは何も書いていないが、東証の担当者により丁寧に解説が書かれているので、実務担当者が書店で見かけた場合は一度手にとって見ておきたい本だ。
それにしても、最近のコーポレートガバナンスを巡る議論は、企業の監視(コンプライアンス)面にのみ重点が置かれているような気がしてならない。コーポレートガバナンスとは、効率性の問題(如何に会社を効率よく統治し経営するか)とコンプライアンスの問題(経営者は放っておくと暴走して株主に損害を与えるので、それをしないような仕組みづくり)の両方の意味があったと思うが、このままではひたすら上場するコストが上昇していく(=僕の仕事が増える)だけだ。効率性の問題を重視した施策も実施していってもらいたいものだ。
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