2008年2月18日月曜日

ブルドックソース事件の考察

ブルドックソース事件の研究のために商事法務№1809,№1810を再読した。

論文は田中亘教授(当時成蹊大学法学部教授)による「ブルドックソース事件の法的検討」である。上・下に分かれているが、特に読むべきは「下」の方だ。田中教授は最高裁の判決を受けて「経営支配権取得に伴って企業価値が毀損されるか否かの判断を、そもそも株主総会でやる必要はあるのか」と主張。株主は買収者の提案に賛成ならTOBに応募するし、反対なら応募しないだろう。これは中央大学の野村修也教授も同様の主張を日経新聞で書いていた。更に田中教授は買収防衛策の発動に際して「株主総会は、基準日の時点では株主であったが、今は株主であるかどうかもわからない者が判断する」のに合理性はあるのか、と。しかし、基準日と株主総会の株主が違うのは、通常の定時株主総会の議案も全部同じであって、その理屈では、これまでのほぼ全ての株主総会をひっくり返すことになるので、買収防衛策だけを切り取って議論するには少し乱暴かと思った。

*参考ブルドックソース事件

【追記】
ブルドックソース事件のポイントは以下の通りである。

①株主総会の特別決議で可決された。
②防衛策発動によって差別的に扱われる買収者は、株数が希釈化するだけではなく、金銭による交付が行われた。
③防衛策の可否を判断する第三者委員会は設置されていなかった。
④事前に防衛策が導入されていなかった。
⑤買収者は事業会社ではなく、かつ企業を経営する予定も計画もなかった。

細かい点を考慮すれば、もっと論点はあるだろうが、ざっくり考えてこんなところだろう。

このブルドックソース事件での防衛策(以降ブルドック防衛策とする)は、現時点で最高裁のお墨付きを得ている唯一の防衛策だが、①と②の条件を満たしても、例えばファンドではなく、普通の事業会社が(王子製紙が北越製紙にTOBを仕掛けたように)、事業規模と資金力にモノを言わせてTOBしてきた場合は、裁判所はどう判断するのか。高裁では「濫用的買収者」と認定されたスティール・パートナーズだが、もし違ったら…??疑問である。

次に第三者委員会(独立委員会)の存在意義だ。今回は設置されずに防衛策は発動されたが、今後防衛策を導入する企業で、第三者委員会は絶対必要とされるのか。少なくとも、第三者委員会の判断に絶対の信頼を置くことはやめた方がいいだろう。

さらに④だが、事前に買収防衛策を導入していなくても、イザとなれば臨時株主総会を開いて特別決議の議案にしてしまえば白黒つけることは可能ということが判明した。とある弁護士も「買収防衛策は時間稼ぎ」と言っていたな。

ブルドックソース事件を経て、防衛策発動可能な方法があることはわかった。ただ、他の事前警告型やライツプランについては、裁判所はどう判断するかわからない。第三者委員会の勧告もしかりで、それがどのようか効果をもたらすのか、まだ判例がない。守る側も不安だが、それは攻める方も同様だろう。下手に突っ込んでいって持株を希釈化された上に、悪者のレッテルを貼られては、以後日本で投資活動などできない。今後の買収防衛策関連の裁判例と、商事法務による解説を待つこととしたい。

【更に追記】
会社法の立法担当者である葉玉弁護士のブログ内で参考になりそうな記事を発見した(→)。これによると、第三者委員会は「法的には何の意味もない」とのこと。では、経済産業省と法務省の出した「企業価値報告書・買収防衛策に関する指針」は一体何なのかという問いに対しては、委員会があるから「適法性が高まる」とは一言も書かれていないよと…。それならば、一体何のために第三者委員会は必要なのかというと「政治的な観点から意味はある」、つまり弁護士の寄せ集めを第三者委員会に選任するのではなく、それなりの人物を入れないと意味がないということだ。となると、やはり『金』がかかる。買収防衛策の精度も金次第ということか。

【最後に追記】
疑問点等をもう一度

・買収防衛策の発動を株主に判断させて本当にいいのか。それでは、何のために取締役を株主総会で選任しているのかわからなくはないか。
・新株予約権を買い取ってお金を支払うことで、株主に出て行ってもらうことは、利益供与にはなりはしないか。
・スティール・パートナーズを濫用的買収者と認めたら、他の海外の投資ファンドも日本から出て行ってしまうのではないか。


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