2021年3月12日金曜日

社会保険で押さえておきたい基本

社会保険の基本を勉強してきた。自分なりに今までよくわかっていなかったことをざっとまとめたので、メモとして残しておきたい。

※内容はすべて記載時点の法令等を根拠としています。最新の内容については、都度調べて下さい。


1.健康保険・厚生年金保険の保険料徴収の仕組み


①保険料の計算
・月の初日入社の人も、月末入社の人も同じ1か月として計算する(日割り計算はしない)
②保険料の徴収
・被保険者になった月から被保険者でなくなった月の「前月分」まで徴収する
・当月分の保険料は「翌月支払う給料」から徴収する
③資格取得月と喪失月の保険料
・保険料は取得月にかかるが、喪失月にはかからない(退職日の翌日が喪失日)

2.月末退職者の保険料にかかる留意点

・資格喪失日が退職日の「翌日」=月末退職者の資格喪失日は「翌月1日」
・保険料の徴収期間:資格喪失日の属する月の前月分まで
 →退職日が1日異なるだけで、保険料の徴収期間が変わることに注意(通常は月末退職だが、イレギュラーとして月中の退職者が発生することもある)

<事例> 

退職者 

退職日 

資格喪失日 

保険料徴収期間 

徴収方法 

退職後の健保・年金 

Aさん 

9/30 

10/1 

9月分まで 

月給料から2か月分天引き (8月分、9月分) 

10/1加入 

Bさん 

9/29 

9/30 

8月分まで 

9月給料から天引き(8月分) 

9/30加入 


この事例の場合、会社が徴収する保険料は、月末退職のAさんの場合は9月給料で8月、9月分の保険料を徴収するが、9月29日退職のBさんの場合は、9月給料から8月分の保険料のみ徴収する。 

 
3.退職(死亡含む)した場合の会社の手続

「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届」に健康保険被保険者証を添付して年金事務所(又は日本年金事務センター)に提出。
※健康保険組合がある場合は、健康保険は健康保険組合に提出する。 

4.退職後の健康保険手続き 

退職後の健康保険は4パターン(①再就職先で加入 ②任意継続被保険者 ③家族の被扶養者 ④国民健康保険 )に分かれる。 ※会社を退職=健康保険の被保険者資格を喪失

■ 再就職する場合・・・①再就職先の健康保険に強制加入 

■ 再就職しない場合

選択 

任意継続被保険 

(健康保険組合) 

家族の被扶養者 

国民健康保険 ※2 

条件 

勤務期間が2カ月以上 

年収基準額 ※1 

60歳未満:130万円未満 

60歳以上:180万円未満 

日本国内に住所のある人で、ほかの健康保険に加入していないこと 

被保険者になれる期間 

最長2年間 

被扶養者として認定されている期間 

他の健康保険に加入していない期間 

保険料 

退職時の標準報酬月額の保険料(会社負担が無くなるため在職時の約2倍) 

不要 

市区町村によって異なる 

医療費負担 

共通:原則3割(70歳以上は原則2割) 

  

※1.健康保険は向こう1年間の収入見込みによって被扶養者となれるかどうかを判断する(年間収入で判断する所得税法上とは異なる)。そのため、退職した後の収入が基準額の範囲内であれば、被扶養者となれる。家族の被扶養者となる場合は、先方の健康保険組合と相談してもらう 

※2国民健康保険は「扶養」という考え方はなく、加入者1人ひとりが被保険者となる。そのため、退職者に扶養者がいる場合は、任意継続保険が有利。 



5.退職後の厚生年金保険手続き


退職後の厚生年金保険は4パターンに分かれる。①再就職先で加入 ②国民年金に加入 ③配偶者の被扶養者 ④年金を受給(受給年齢に達している場合) 

<4パターン>

再就職先で加入 

国民年金に加入 

再就職先の会社に年金手帳を提出して加入する。但し、離職期間が1か月以上生じる場合は、離職期間は国民年金保険に自分で加入する必要がある。 

 

退職して厚生年金の被保険者でなくなると、20歳以上60歳未満の人は国民年金に加入する手続きが必要。60歳未満の被扶養配偶者も、国民年金第3号被保険者から第1号被保険者に変わるため、保険料を納めなければならない。手続きは、退職後14日以内に市区町村の国民年金担当窓口に行く。 (保険料:1人月額16,540円/令和2年) 

配偶者の被扶養者 

年金を受給(受給年齢に達している場合 

配偶者が第2被保険者の場合、配偶者の扶養に入ることで、第3号被保険者(自分で保険料を払わず配偶者が加入する年金制度が保険料を負担)になることが可能。 

 

退職者が年金受給年齢に達している場合(老齢基礎年金は原則として65歳から支給)は、市区町村の国民年金担当窓口に年金手帳を提出して年金受給の開始となる。但し、退職者が失業手当を受給する場合は、失業手当が所得となり年金受給額が減額されるため、その場合は年金担当窓口で相談してもらう。 



6.退職後の雇用保険(資格喪失)手続き

<手続きの流れ>
①「離職証明書」を会社が作成し、退職者に渡す。その内容を退職者が確認の上、記名、押印をして会社に返却してもらう。
②「雇用保険被保険者資格喪失届」を会社が作成し、①で記名押印済の「離職証明書」を会社からハローワークへ提出する。
③ハローワークから会社に「離職票-1」「離職票-2」が届く。
④会社から退職者に「離職票-1」「離職票-2」を郵送する。(「雇用保険被保険者証」を渡していない場合は、このタイミングで郵送する)
⑤退職者が「離職票-1」「離職票-2」を持参してハローワークに提出する。
 
 
7.雇用保険(求職者給付における基本手当)の給付を受けられる条件

離職日以前2年間に被保険者期間が通算して12カ月以上あること(特定受給資格者※1や、特定理由離職者※2は、離職日以前1年間に6カ月以上あれば受けられる例外あり) 
 

※1 特定受給資格者 

離職理由が倒産や会社都合の解雇等、再就職の準備をする時間的な余裕がなく離職を余儀なくされた人 

※2 特定理由離職者 

期間の定めのある労働契約が更新されなかったこと、その他やむを得ない理由により離職した人 




2021年3月9日火曜日

資格取得制度の考え方

グループ内で事業売却を繰り返した結果、事業継続に必要な有資格者数が減少し、急遽資格取得に関する適切なインセンティブ制度が必要となった人はいないだろうか。 前提は置いておいて、私の会社ではこういう後ろ向きな形で資格取得推奨制度を導入することになった。論点はいくつかあったが、複数の項目について検討を行ったので、規程文例と合わせて紹介を行いたい。これから社内規程を作成する人の一助になると幸いである。
 
 
1.手当にするのか、一時金にするのか、費用負担だけにするのか【選択】
資格取得のインセンティブ制度として機能させるならば、何らかのメリットがないと従業員は自発的に勉強しない。どれだけの餌をぶら下げるか、を検討しなければならないが、
 
 毎月の手当 > 一時金 > 費用負担のみ
 
の順で勉強するインセンティブは小さくなる。私の会社の場合は、まずこの部分の設計で揉めた。手当をいくらにするのか等、金額設定はその次に考えるべきことだろう。
 
2.手当の問題点
会社として資格を取得してほしい社員が取得すれば問題はないが、手当は収入に直結するため、手当欲しさに業務とはあまり関係がないのに勉強を始める社員が一定数出てくる可能性はある。必要ない社員に支払う手当は、無駄金だ。これの解決策としては2点考えられる。
 
 ①該当資格の手当対象となる「部署」を絞る。
 ②取得時に「会社が認めた社員に限る」と限定する。

部署を絞った時点でかなり効果は高いが、更に会社が認めた社員と限定することで確実になると思われる。なお、②に関しては社員が資格試験へのチャレンジを開始する時点で合意する形が望ましい。
 
【規程文例】
( 対象者 )
第〇条 
以下①及び②に該当する社員を対象者とする。
① 会社から資格取得の要請を受けた社員
② 業務に関連する資格の取得を自ら希望し且つ会社が承認した社員

 
 
3.報酬(手当と一時金)を組み合わせる方法
取得報酬は手当か一時金か、というやり方では部門によって事情が異なり、話がまとまらないことがある(例えば建設業の許認可の関係で国家資格者が絶対に必要な事業部門と、そういったものが特に必要ない経理部では資格に対する概念が異なる)。その場合の解決策としては、以下の事例のように、まぜる方法がある。 

 ①最上位資格(会社として絶対に欲しい資格)=手当 + 一時金
 ②上位資格(必須でないが、業務上な資格)=一時金(又は手当) 
 ③推奨資格(社員のレベルアップにはつながる資格)=受験料負担のみ

こうすれば①最上位資格はプレミアム感が出る。
 
【規程文例】
( 資格取得の費用及び報奨に関する取扱 )
第〇条 
資格取得に要する費用の取扱いは、次の区分のとおりとする。
第1区分
 法令等の定めにより、事業運営上取得を必要とする資格。保有者には手当を支給し、取得者には一時金を支給する。
第2区分
 取得が事業運営上極めて有益であると判断される資格。取得者には一時金を支給する。
第3区分
 取得が事業運営上及び業務遂行上有益であると判断される資格。
 
 
4.受験費用の負担範囲と限定
会社として社員に受験を認めるのであれば、最低でも受験費用の会社負担は必要となる(それをするつもりでないならば、そもそも規程など必要ない)。受験料にプラスして、受験会場までの交通費や、場合によっては宿泊費、休日が試験日の場合は休日出勤とみなす等、受験に関する負担は全て持つような内容であれば、手当や一時金が出なくても、社員は資格試験に挑戦する価値があると感じてくれるだろう。
なお、中には資格を取得して即退職するような社員もいると思われる(転職に有利になるため)。そういうケースも想定するならば、例えば取得後3年以内の自己都合等による退職の場合は、会社の負担した金額を返還するような定めを置くことが考えられる。
 
【規程文例】
( 会社の費用負担と返還義務 )
受講・受験・交付料にかかる費用は、全て会社負担とする。但し、社員は資格取得後〇年間以内に「退職金規程」に定める自己都合等の理由で退職した場合は、当該費用は返還を行うものとする。

 
5.スクール等費用の負担まで行う場合
どうしても取って欲しいということで、会社が特定の社員にTAC等の資格スクールに通わせて資格を取らせるケースもあると思われるが、何十万円もの資格スクールの費用を会社が負担している時点で、一社員に対してかなりの過剰投資を行っていることになる。それにプラスして報奨金を出すとなると、一部の社員からは反発を食らうことが予想される。私の感覚としては、規程で社内稟議が必要となるような訓練費等を会社が負担した場合は、社員への報奨金は支給しなくて良いと考える。
 
【規程文例】
( 報奨金の支給 )
報奨金は、指定資格を取得した日の属する翌月度給与に別表の通り支給し、課税対象とする。但し、当該資格取得において、社外受講にかかる費用負担として受講料〇万円以上の補助を受けた者は、これを支給しない。

 
 
6.報奨金(一時金)と課税処理
資格試験合格後に従業員に報奨金(一時金)を払う場合、その報奨金は課税処理する必要があるのかどうか、についても顧問税理士に確認したので、参考までに掲載しておきたい。

結論は、非課税処理はできない。

資格取得等の費用に関して適正なものに関して課税しなくて差支えないとされている【所得税基本通達36-29の2】は、資格を取得するための費用を支給する場合のものであり、資格を取得した後に報奨金を支払う場合のものではない。したがって、資格取得後に支払う報奨金は、源泉徴収する必要がある。
なお、「規程を策定して、全従業員に周知すれば源泉徴収はいらない」というネット情報もあるが、税理士に確認したところ、通達にそのような記載はなく、根拠が不明と言われた。


7.同一労働同一賃金の問題
人事労務担当者であれば、福利厚生制度を作る際に、必ず意識しなければならないのが、「同一労働同一賃金の問題」である。例えば、この資格手当や取得一時金にかかる制度の対象を、就業規則に定める従業員に限定し、契約社員、アルバイト社員を含まないことは、同一労働同一賃金の問題が発生しないのか。
現時点の同一労働同一賃金に関する判例で、資格取得一時金が争われたものはないものの、厚労省のガイドラインによると含まれると判断でき、正社員に限定すると、均衡待遇違反になる可能性が高い。
最終的には、説明を求められた際の個別判断となるが、正社員のみに適用される合理的な理由を、例えば、社員の「長期的なキャリアアップ」を目的とすることも可能だが、十分な理由として成り立つかというと、かなり苦しいと思われる。


8.法令で必要な資格と難易度のバランス
法令で設置が必要となっている資格だからといって、例えば合格率が4割を超えるような「衛生管理者」の資格保有者にも一律で手当を設定するケースがある。報奨金や手当は資格難易度のバランスも考えた設定にした方が良いだろう。
 
 
9.保有者の管理(データベース化)
これは規程ではないが、意外に社員の保有資格を管理していない会社は多い。管理部とか人事部の任務怠慢だが、取得支援制度を整備するのであれば、データベース化も合わせて進めるべきであろう。
 
 
なお、今回の規程作成にあたっては、色々な人の意見を参考としたが、資格に対して手当や報奨金を支払うのは時代遅れだとの指摘もあった。受験料や講習受講料は全て会社負担とするが、報奨金は出さない。なぜなら、その資格は本人に帰属するものなので、資格が取得できた時点で十分本人のメリットになり得るという考え方である。また、資格取得は手当にならなくても、考課の評価対象の一つとすることで、給与に反映する手法も考えられるだろう。資格取得制度という一つの切り口でも色々と論点はあって、人事制度は難しいなと感じた。 


2021年3月8日月曜日

労働法の基本を勉強

労働法の基本セミナーに参加し、募集時の留意点から最近の働き方改革関連法まで幅広く学習してきた。以下、特に講師から強調された部分を中心に紹介。 (働き方改革関連法に関しては前回まとめたので、今回は割愛
 


うつ病等の病歴調査
うつ病の病歴があることを隠して採用募集に応募し、入社後に発症するケースが増加している。事前に病歴調査は可能か。行政は採用差別につながるとして慎重な対応を求めているものの、判例(B金融公庫事件:東京地判 平成15年6月20日)では採用時に会社が応募者に対して行う健康診断の必要性が認められている。従って、エントリーシート等に病歴の有無を記載する欄を設ける、面接で質問する等で確認することは可能である。
 
内定取り消し
内定の取り消しは採用後の解雇より緩やかに認められると勘違いされているが、実際は内定取り消しもなかなか認められない。採用内定とは「始期付解約権保留付労働契約」であり、雇用契約が成立していると評価されることから、大学留年など内定者自身の特有の事由での取り消しは可能だが、人員整理や能力不足といった会社の事情による取り消しは社員解雇と同程度の制限がかかる。グルーミー(陰気)な印象であることを理由とする採用内定取消では、通念上相当とは是認できず、解約権の濫用にあたるとされた判例もある(大日本印刷事件:最高裁 昭和54年7月20日)。
なお、職業安定法施行規則改正(平成21年1月19日施行)では、採用内定取り消しを行った企業名が厚生労働省HPで公表されることとなっているが、その該当事由の一つに「2年以上連続で取り消した場合」がある。これは、例えば新型コロナウイルスの影響のような経済的事情によるものだったとしても、2年連続で取り消しを行えば公表されるということ。企業名の公表は、採用における企業イメージのマイナスに大きくつながるため、一方的な内定取り消しではなく、内定者とは合意の上で「内定辞退」をしてもらうことが望ましい。
 
試用期間の注意点
「試用期間」とは、一定の試験的な期間を設け、その期間中に勤務態度、能力、技能、性格をみて、正式に採用するかどうかを決定する制度である。では、能力不足を理由に本採用を拒否することは可能なのか。これは、「採用面接時に会社が期待している能力を具体的に説明しており、期待された能力を著しく欠く場合」、とされている。中途採用においては、面接時にこの「期待している能力」を明確にしていないケースが多く、特にシステムエンジニアのような採用では、スキル表にチェックを付けて雇用契約に添付する形が望ましいだろう。 また、試用期間を6カ月のような長期間に設定している会社もあるが、長くすればするほど、その期間は能力を見る期間と解釈される。原則として試用期間満了までチャンスを与えることが必要となるため、避けた方が良い。
 では、試用期間(3か月間とする)を何のための期間と考えるべきか。これは期待された能力の確認期間とするべきである。 

 ・ 1か月目:能力を見る期間(能力があればOK)
 ・ 2か月目:能力がなければ、その旨を注意する(それで改善すればOK)
 ・ 3か月目:改善が見られなければ退職勧奨を行う

上記プロセスを経れば、能力の無かった社員には退職勧奨しやすく、合意を得られやすい。
 
不利益変更の許容範囲
賃金カットを行う際、どれくらいの割合であれば不利益変更が許されるのか。実務的には10%まで、とされており、これ以上となると合理性が認められにくくなる。30%の減額は倒産寸前の会社でも非常に困難だとされている。なお、本件は業績不振に伴う賃金カットだけではなく、成果給導入による賃金変更も同様であり、導入による賃金減額が10%を超える場合は、個別で合意が必要。もし裁判で争うこととなった場合、「高度の必要性に基づいた合理的な内容(大曲市農協事件:最判昭和63年2月16日)」を具体的に説明できなければならない。
 
名ばかり管理職と未払い残業代
日本マクドナルド事件(東京地判平成20年1月28日)において、管理監督者を①企業経営全体への関与、社員の採用権限があるか ②遅刻欠勤等での賃金カットが無いか ③管理監督者ではない従業員と年収が逆転していないか(最低700万円以上)、の要素を総合的に考慮して判断するとされたが、裁判まで発展するケースでは、ほぼ企業側が負けており未払い残業代が高額化する傾向にある。一方で、労基署は管理監督者の条件を判例より甘く見ており、①アルバイト採用権限があるか(企業統治関与は不要) ②マネジメント業務の割合が50%以上か ③年収が従業員より低くても500万円はあるか、をチェックしている。企業の労務担当者としては、裁判まで勝てなくても、労基署の基準をディフェンスラインとして管理職の条件を整えるべきであろう。 



2021年3月3日水曜日

通信の秘密と音声認識データの分析

先日、オンライン商談や営業電話における会話を自動で文字起こしするツールの紹介(営業)を受けた。単純に会話の文字起こしをするだけではなく、記録(議事録)や会話の内容解析まで行ってくれるという優れモノ。私の会社では、若手社員が商談や会議毎に数時間費やして議事録を作成して、そして上司がそれをチェックする・・・という時間が発生しているので、業務効率化の一環としては最適なサービスだと考え、一旦テスト導入してみることになった。




サービスそのものには問題はないのだが、少し引っかかったのが、このサービスを利用するにあたっての利用規約に書かれてあった以下の一文である。


“当社は、ユーザーに対する本サービスの提供、開発または改善のために必要な範囲において、ユーザーの音声データにつき複製、編集、解析、変換その他必要な処理をすることができるものとする”

    太字の部分は私が気になった部分


私は、この一文を読んで、法務担当者として少し違和感を覚えた。今回はその違和感の内容をまとめておきたい。


(ここからは推測の域になるので、同じようなビジネスをしている会社の人はクレームを入れて来ないで下さい)




1.音声認識AIの学習プロセス

音声認識システムの核となるAIシステムは、音声と文字の認識学習をする際、音声の正しい文字起こしを学習して精度を上げて行く必要がある。では、その音声の正しい文字化は、誰が判断するのかというと、それは当然「人」である。つまり、AIの学習において「人」の関与は必要不可欠であると思われる。


2.音声ビッグデータの取得先

次に、今回紹介を受けたようなシステムのAI学習を行う際のビッグデータ(音声)は、オンライン商談やWEB会議で蓄積される会話になるが、これは「通信中に発生した音声データ」という認識で間違いないだろう。上記の利用規約の“その他必要な処理”には、サービスを通じて集約された音声データを聞くという作業が入っていると思われる。

この2点から、「この会社では、AIの精度向上のため、音声を聞くという作業が入るのは間違いない」と思った。


3.通信の秘密の問題

ここで問題になると感じたのが「通信の秘密」との関係性である。

通信の秘密は、「通信の秘密は、これを侵してはならない」と憲法上で明記されている(憲法21条2項)。また、電気通信事業者は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」と通信の秘密を守ることが義務付けられるとともに、これに違反した場合には、三年以下の懲役又は二百万円以下の罰金が科されるおそれがある(電気通信事業法4条、179条)。なお、今回の業者は電気通信事業者として登録されている。


4.通話データ聴取の違法性

事業者が守るべき通信の秘密の具体的な内容は、以下のとおりとされている。


A 個別の通信にかかる通信内容

B 個別の通信にかかる通信の日時、場所、通信当事者の氏名等の個人識別符号

C 上記のほか、通信履歴など知られることで通信の意味内容が推知されるような一切の事項


通信中の音声データは、当然Aに該当する。また、Aは、秘密の侵害度が高いため、例外は認められ難く、警察による捜査のための通信傍受等法令に基づき実施されるようなものを除いては、利用すれば違法と判断される可能性が高いと言われている。

※通話内容以外であっても取得が認められるのは、料金請求のための通信履歴の活用等、業務に必須の事項と言えるような極めて例外的な事例に限られるとされている。


5.グレーゾーン?

上記1~4で判断すると、おそらくこの会社はAI開発において通信の秘密を侵していると思われる。


□ ■ □


さて、今回営業を受けた会社がこのあたりのハードルをどうクリアしているのか、もしくは業界内での暗黙の了解として、ブラックゾーンだけれども目をつぶっているのかは分からない。ひょっとしたら、AIの学習に通信中の音声データは利用していないのかもしれない(利用規約からその可能性はないと思うが…)。

WEB会議の文字起こしサービスは便利だし、今後もっと精度が上がれば生産性も向上するのは間違いないと思うけれども、電気通信事業者が通信で蓄積されたリソースを使って開発をするのは、危ういのではないか、と思った。


<参考>

通信の秘密、個人情報保護について (総務省)

電気通信事業法及び通信(信書等を含む)の秘密 (総務省)

2020年5月24日日曜日

同一労働同一賃金への対応

今更ながら同一労働同一賃金について調べてみた。これは、正社員と非正社員での「不合理な待遇差」を禁じる改正法であり、大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から適用される、つまり一部の企業ではすでに適用が始まっている。
よって、今更腰を上げている大企業の担当者は失格なのだが、とりあえず、覚えておきたい内容を、メモとしてここに残しておくこととする。

結論から言うと、企業として準備すべきことは以下の2点である。

  1. 正社員と非正社員(定年後の再雇用者や地域限定職社員含む)の待遇差を整理した表の作成
  2. その待遇差の「説明義務」の準備

以下、同一労働同一賃金の法改正のポイントを簡単に紹介する。


同一労働同一賃金の主な改正内容
  • 正社員と非正社員の不合理な待遇差を禁じる「均衡待遇」と「均等待遇」の規定が整備されたこと。
  • 雇用形態による待遇差の内容と理由について、「説明義務」が創設されたこと。

法改正の目的
同一労働同一賃金という言葉から、「非正社員が正社員と同一の労働をしているのであれば、正社員と同一の賃金を払わせること」が目的だと思えるが、そうではなく、後述の「均衡待遇」と「均等待遇」を強化することで、不合理な待遇差を無くすことを目的としている。つまり、賃金だけではなく、休暇、福利厚生施設、研修の機会等の格差も課題となる。なお、対象が正社員と非正社員の差の是正であるため、正社員同士の手当の差や、有期契約社員同士の差には対応不要。

「均衡待遇」とは
正社員と非正社員の待遇差について①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲、③その他の事情、を考慮して不合理な待遇差を禁止する制度。一切の待遇差が禁止されているわけではなく、それぞれの要素でバランスが取れているか否かが問題となる。

「均等待遇」とは
①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲、が正社員と非正社員で同一の場合、差別的取り扱いを禁止する制度。ただし、①②は雇用期間全体で判断するため、実務では「均衡待遇」程の重要性はない。

「説明義務」とは
短時間・有期雇用労働法では、待遇差の説明義務が新設され、企業は非正社員から待遇差の説明を求められれば、待遇差の説明を行う義務を負うこととなった。これに伴い、労基署は相談者が来た場合「短時間・有期労働法14条2項に基づいて企業から説明を受けてほしい」と最初に指導を行うようになっている。これは、会社として考えていることを説明すれば義務は果たされるが、今回の改正法施行に伴い、最も企業が注意しなければならないのが、この説明義務に違反すること。説明義務を果たさない場合、労働行政に指導を受けることや、企業名を公表される恐れがある。

非正社員の雇用上の留意点
正社員と非正社員の職務内容の違いを規程で明確に区分して、待遇差の「説明義務」の準備をしておくことが必要。非正社員の労働契約書や就業規則に職務内容が無限定となっていたり、出向や転籍に関する規定があれば、見直しを検討する。

定年社員の再雇用契約の留意点
定年に達した社員を再雇用する際、賃金は減額する会社が多いが、それが不合理な待遇差だとして揉めるケースがある。この定年再雇用に関しては最高裁の判例があり(長澤運輸事件:最高裁平成30年6月1日)、判決において、定年後の嘱託再雇用は長期間働くことが予定されておらず、老齢年金の支給等も見込まれ、正社員と賃金体系は異なるため、定年前後で仕事の内容が変わらなくても、給与や手当の一部(家族手当、住宅手当など)、賞与を嘱託社員に支給しないのは「不合理ではない」としている。ただし、皆勤者に支払われる精勤手当を嘱託社員に支給しないのは「不合理」とされていることから、皆勤手当のような手当が就業規則にある場合は契約書のひな型の見直しが必要。

2020年5月20日水曜日

2020年7月以降の雇用調整助成金

要注意:本記事執筆時点から、雇用調整助成金の期限は何度も延長が行われています。厚生労働省のHPに掲載されている最新情報をチェックして対応してください。


現在(2020年5月中旬)、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、企業が休業した場合の雇用調整助成金の「特例措置」が設けられている。この特例措置は通常時の雇用調整助成金と比較して、各種要件が大幅に緩和されており、また助成される金額も増えていることから、飲食業等、コロナ影響を受けた経営者の中には申請手続きを行った人もいるだろう。

ただ、現在私の業務に関連するビジネスでは、このコロナの影響により、特例措置の期日とされている2020年6月末以降も、休業をしなければならない可能性が、おぼろげながら見えてきた。

後述の通り、本記事執筆時点(2020年5月中旬)では、特例措置は2020年6月末までと区切られており、それ以降に「一時帰休」等によって雇用調整助成金を申請する場合は、従来の条件(通常時)で申請を行わなければならない。

通常版の雇用調整助成金で申請する場合の留意点について、早急に調べてみたので、7月以降が気になっている方は参考にしてみてもらいたい。前提条件として、休業のみ行い、教育訓練は行わないものとしている。

ただ、参考にしてほしいと書きつつ、私は弁護士や社会保険労務士といった専門家ではないので、当然ながら記事に内容には一切責任が持てないことは最初に書いておきたい。また、本助成金の手続き等は目まぐるしく変わるので、実際に申請を検討する場合は、最新の情報を厚生労働省のHPで確認することを強くお勧めする。


■雇用調整助成金のポイント(特例措置ではなく通常時)


申請単位
助成金支給は「雇用保険の適用事業所」が単位とされ、「本社」が基準ではないことに注意。例えば、複数の都道府県でホテルを経営しており、各ホテルで雇用保険の適用事業所となっている場合、休業を行うホテルの助成金の対象は、そのホテルで雇用保険被保険者となっている労働者であり、その申請は、そのホテルが雇用保険料を納めているハローワーク又は都道府県の労働局へ行う。

主な支給の要件
支給要件はいくつかあるものの、主な要件は以下の3つだ。これらの要件は、すべて例外なく満たしていないと一切認められないので、どれかに引っかかっていることが分かれば助成金は諦めた方が良いだろう。

【生産量要件】
売上高または生産量などの事業活動を示す指標の最近3か月間の月平均値が前年同期に比べ10%以上減少していること

【雇用量要件】
雇用保険被保険者数および受け入れている派遣労働者の最近3か月間の月平均値が、前年同期と比べ、大企業の場合は5%を超えてかつ6人以上(中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上)増加していないこと

【休業等規模要件】
判定基礎期間における対象労働者に係る休業の実施日の延日数が、対象労働者に係る所定労働延日数の1/15(中小企業の場合は1/20)以上となるものであること

※休業実施日の計算は、休業した労働者が1名でもいれば「1日」とカウントするのではなく、雇用保険適用事業所における雇用保険被保険者の所定労働日数の合計日数で算出することに注意。仮に1,000名の労働者が働く雇用保険適用事業所(大企業)で、休業する月の所定労働日数が20日の場合
 ・1,000名×20日×1/15=1,333日(小数点以下切り捨て)
仮に特定の部署のみ1か月間休業させるつもりであれば、
 ・1,333÷20日=66.65
すなわち、67名以上を休業対象としなければならない。

支給限度日数
1年間で100日分、3年で150日分 ※支給日数の計算方法は、「休業規模等要件」における考え方と同じ。

判定期間
1年の期間内(任意に設定可能)に実施した雇用調整(休業)について、1か月単位で判定。

金額上限
休業手当に助成率1/2(中小企業は2/31)を乗じた額。上限は1人1日あたり8,330円。但し、休業期間中に「所定外労働等」があった場合は、休業期間の算定に所定外労働等の時間は「残業相殺」として控除。

■申請手続き


雇用調整助成金


計画届の事前提出
「休業等実施計画届」の「事前」に届出が必要。事前に計画届の提出のなかった休業等については、本助成金の支給対象とならない。

計画届の提出期日
提出の期日は休業を開始する日の前日まで。但し、初回届出の場合は、休業初日の2週間前までを目途に提出。

支給申請の期日
申請期日は、「支給対象期間」の末日の翌日から2か月以内(例:支給対象期間4/16~5/15の場合、支給申請期限は5/16~7/15)。締切日を1日でも過ぎると、支給申請書は受け付けられない。

提出書類
※書式は簡素化されつつあるので、最新のガイドブックで確認して下さい。

提出先
雇用保険料を納めているハローワーク又は都道府県労働局

 

2020年2月13日木曜日

2020年の為替(ドル円)の見通し

今日は為替の勉強会(セミナー)に参加したので、その時のメモをまとめておく。

テーマは2020年の為替相場見通しだったが、見通しよりグローバル経済の現況に関する説明がほとんどだった。内容を一言で言い表すならば、「2020年も世界景気は総じて厳しい一年になりそうなので、為替(ドル円相場)は年末にかけて徐々に円高に進むだろう」となる。

<5つの金融市場のテーマ>

1.米中問題
2020年1月15日に米中「フェーズ1」の合意がなされた。これは包括的な貿易協定の第一段階であるが、合意の内容の内、サービスの輸入(金融サービス他)等、中国側で履行が容易でない分野もあり、今後の展開には注目が必要。また、これをもって米中対立問題は一旦小休止したものの、終結したわけではなく対立は続いており、米中関係は引き続き不安定であると言える。なお、フェーズ1合意の中に「協議による二国間の紛争解決の枠組み」が含まれたため、今後はトランプ大統領のツイッター1つで関税が変わるようなリスクは低くなっただろう。

2.米国大統領選挙
2020年最大の注目イベントであり金融市場に与えるインパクトも大きいと予想するが、11月3日の大統領選挙の結果は現時点では見えない。目先としては民主党候補が誰になるかが注目点であり、急進左派であるサンダース氏やウォーレン氏が台頭すれば、相場はリスクオフ(円高)で反応する可能性がある。

3.中国の景気動向
中国の景況感は米中貿易摩擦の激化緩和の期待から、2019年末から持ち直しの兆しが見られたが、新型コロナウイルスの感染拡大により悪化することが見込まれている。但し、コロナウイルスによる影響は現時点では未確定であらゆる指標には盛り込まれていない(盛り込むことができない)。中国景気が世界全体の需要に及ぼす影響は大きく、注意が必要。

4.五輪後の日本経済
東京五輪は日本経済の成長率を一定程度押し上げる見込みだが、新型コロナウイルスの影響が長引けば経済効果も不透明感が増してくる。消費増税に関しては、負の所得効果がキャッシュレス優遇の無くなる2020年7月から出てくると見られており、消費水準の回復は遅れるだろう。こうした中でも日銀の追加緩和余地は乏しく金融緩和策は期待ができない。

5.BREXIT(英国)
ひとまず2020年1月31日に英国はEUを正式に離脱。今後はFTA(自由貿易協定)等の交渉に注目。

<ドル円相場の見通し>

2020年:後半にかけて世界的な景気鈍化を予想。徐々に円高圧力が高まるだろう。2020年末には1米ドル=108円と予想。
2021年:米国景気鈍化がより鮮明となり、FRBが利下げを実施。これにより円高が加速。2021年末には1米ドル=103円と予想。

但し、現時点では、新型コロナウイルスによる影響は織り込まれておらず、中国経済が悪化すれば世界経済も低迷し、上記予想より円高が進むと予想される。

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2020年2月6日木曜日

純粋持株会社における子会社からの配当政策

3月末決算の上場会社にとって、そろそろ考え始めなければならないのが、剰余金の配当である。すでに決算短信等で配当予想は開示しているので、基本的にはそれに沿って配当すれば良いのであるが、当初の予想より業績が悪くなりそう、もっと言うと赤字転落しそうな場合は色々と考えなければならない。

中でも面倒なのが子会社からの配当で、いつ、いくら、どうやって取るのか、純粋持株会社を例に考えてみた。


<純粋持株会社は上場企業と想定>

純粋持株会社は自社では稼ぐ力がないので、株主に配当を行うか否に関わらず、最低でも自社の販管費等を賄うために、子会社から配当を吸い上げる必要が生じる。

また、純粋持株会社(何とかホールディングス)は証券取引所に株式上場している会社が多く、その多くは3月決算会社であるので、 3月末決算の上場会社と想定する。

<検討事項> 
  1. そもそも今年度、持株会社の株主に配当を行うのかどうか
  2. 持株会社内に利益剰余金がない場合、その他資本剰余金から配当するのかどうか
  3. 利益剰余金による配当を行う場合、子会社からいくら配当を取るのか

最低でも上記3点くらいは配当を行う前に検討しなければならない。また、前述の通り、株主には配当しなかったとしても、最低でも自社の販管費を賄うため、子会社からその分の配当を吸い上げる必要はある。

余談だが、某外資系のアナリストが「日本は配当の有無と株価感応度が異常に高い」と言っていたので、減配したり無配にするならば、それ相応に市場から反応を受けることを覚悟しておきたい。


<子会社から公平に配当を取るために>

持株会社と事業会社の関係性を考える上で、「企業グループの内部留保はすべて持株会社で集約すべきである」、という考え方もある。そうすることによって、グループ経営のコントロールタワーである持株会社がより有効的に会社資源を活用することができる(投資ができる)という考え方だ。その場合は、子会社の決算時の利益はすべて親会社に配当することになる。

しかし、実際に持株会社がそれほど強い権限を持っていないケースもある。例えば、元は一事業部門だった組織がスピンオフされた上で、「子会社として独立させたのだから、自立してやっていけ」と、持株会社から突き放されている場合などだ。親会社が自立してやっていけというなら、稼いだ金の投資も自分らで決めさろ、と反発される可能性は大いにある。従って、子会社からの当期利益はすべて配当として取れないケースも存在しうる。

「子会社から一律で〇割の配当を取る」等、特に法律で決まっている指標はないので、指標は任意となるが、上記のような事情にも鑑み、子会社間で納得感がある明確な指標は必要。BSの剰余金だけ見て一律に決める考え方も無くはないが、その年の見込(又は前年実績)の利益から一律〇%としたり、土地を売却した等の特別利益は全て吸い上げる等のほうが無難かと思われる。


<過去に利益剰余金のマイナスが発生していた会社の留意点>

過去、赤字が累積したことで「その他利益剰余金」がマイナスになった結果、「その他資本剰余金」から振替を行う「損失処理」を行った子会社の配当に関しては、少し考慮が必要である。損失処理を行った事業年度以降に積み上がった利益剰余金は、BS上は利益剰余金だが、果たしてこれを配当することが、「利益からの配当」と考えてよいのか、という視点である。考え方の一つとして、「過去に利益剰余金の損失処理で振り替えた額を上回るまで利益剰余金が積み上がるまでは、その子会社から配当は取らない」ことも、運営としてはあり得るだろう。


<中間持株会社がある場合のスケジュール調整>

利益剰余金の無い中間持株会社がある場合、スケジュール調整に少し工夫が必要となる。持株会社(親会社)が3月末決算会社である場合、当然ながら3月末までに子会社からの配当が必要となる。一方で、配当は最終事業年度にかかる決算で判定するため、中間持株会社には十分な剰余金がないケースが多い。

こういったケースにおいて、会社法では臨時計算書類を作成する(臨時決算を行う)ことで、最終事業年度末日以降の期間損益を分配可能額に算入することが認められている。従って、中間持株会社は前月(今回のケースでは2月末)までに子会社から配当を受けとり、その配当を受けた後に臨時決算を行って臨時計算書類を作成、その時点での「期中の利益」として「分配可能額」を確定させる作業が必要となる。

※ 分配可能額の計算は結構複雑なので、経理部門に任せるのがベター。目安としては以下の式で簡易に算出することは可能。

▪️分配可能額(目安)=その他資本剰余金+その他資本剰余金−自己株式(簿価)

剰余金の配当には株主総会の普通決議が必要なので、子会社は臨時株主総会の準備が必要となる。 配当スケジュール例(案)は以下の通り。

<スケジュール例> 中間持株会社が3月末に配当を行いたい場合








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2020年2月4日火曜日

東証再編と時価総額100億円未満の東証一部企業

少し古い話題になるが、東証の再編についてレポートを読んだので、簡単な感想を書いておきたい。(資料は文末をご参照)

なぜ「東証」市場再編なのか?


東証再編とは、簡単に言うと現在の東京証券取引所における市場第一部、第二部、ジャスダック、マザーズを「新しい市場区分」として「プレミアム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」の3市場へ再編するというもの。

この市場のうち、最上位とされる「プレミアム市場」の上場基準については、以前は時価総額250億円以上とされていたが、2019年12月25日に示された「東証再編に関する報告書案」では、これが100億円になると公表された。

ここでドキドキしているのは、現在東証一部に上場しており時価総額がそんなに高くない会社である。なお、現在の東証一部の上場基準は時価総額では40億円以上なので、数は多くないが、時価総額が100億円に満たない会社は存在している。そういった会社は、失礼ながら一般的な知名度はほぼ無く(ヘタすると業界内でも知名度がない)、業績も給料パッとせず、社員が親戚に誇れることは「東証一部の会社に勤めている」ことくらいだったりするので、現在の東証一部と同格扱いとなる「プレミアム市場」に残れるかどうかは、割と切実な問題なのだ。

この時価総額基準については、東証再編のスタートが500億円で、その後250億円まで緩和され、今回100億円まで落ちてきた(流石にこれ以上落とすと、今の基準と変わらなくなるので「再編」にはならないだろう)。100億円にまで緩和されたことによって大半の現東証一部の会社は自動的にプレミアム市場に移り、それ以下の会社はスタンダードに転落することになる。

・・・のかと思いきや、今回の報告書案では救済的に「経過措置」が設けられていた。


「市場第一部上場企業は、上場・退出基準に関する新たな時価総額(流通時価総額)に関する基準を必ずしも満たしていないとしても、プライム市場の選択を希望する場合には、より高いガバナンスについてのコミットメントを行う限りにおいて、当分の間、プライム市場への上場・上場維持を基本的に認めることが適当と考えられる」

時価総額100億円にも満たない会社にそんなに気を使ってどうするんだと思うかもしれないが、東証にとっては上場会社の納める上場賦課金は大事な収入源なので、小さな声(東証一部に残してくれ)にも一応答えたことになるのだろう。

なお、ここでのポイントは2つある。

①「より高いガバナンスについてのコミットメントを行う限りにおいて」

より高いガバナンスとは一体何なのか一切書かれていないので、今後公表されるCGコード改訂と関係してくるのであろうが、高度なガバナンスの一例として有名な「英文で招集通知を作成する」とか、時価総額100億円もない会社が作ってどうするんだ、という気はしなくもない。


②「当分の間、プライム市場への上場・上場維持を基本的に認める」

当分の間、ということは、①の高度なガバナンスをコミットして、それでも一定期間内に時価総額100億円に到達できなかったらスタンダードに落ちる、という意味だと読んだ。実力はあるものの、ガバナンスがダメなので市場から評価されていない会社もないことはないだろうが、そんな会社はレアだと思うので、プレミアムは諦めて最初からスタンダードを選択する東証一部上場企業も出てくると予想する。加えて現在のTOPIX(東証一部全銘柄で構成)に該当する新インデックスは市場区分と切り離した運用が考えられているようなので、時価総額が低いのにプレミアム市場にこだわるメリットは殊更大きくないだろう。

なお、更なる詳しい骨子については、2020年2月に公表される予定で、上記の辺りも明らかになってくるのだろうが、個人的には市場に応じてガバナンスレベルを変えていくというのは大賛成。正直に言って社外取締役の人数が多いとか、英文の開示を充実させているとかによって企業の不祥事が減ったり、業績が改善するなどと、思うような気がしたりしない(明言は避ける)けれど、こういうのはスタッフを揃えたりコンサルを入れたりと単純にコストがかかるので、別に世界一を狙ったりせず、地元の雇用を優先しながら地銀とタッグを組んでぼちぼちやっているようなメーカーとかは、最低限の会社法が求めるガバナンスで良いと思う。

<参考>
市場構造の在り方等の検討(日本証券取引所HP)
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/index.html

金融審議会「市場構造専門グループ」(第6回)議事次第(金融庁HP)
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market-str/doc/1224/20191224.html