東証再編とは、簡単に言うと現在の東京証券取引所における市場第一部、第二部、ジャスダック、マザーズを「新しい市場区分」として「プレミアム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」の3市場へ再編するというもの。
この市場のうち、最上位とされる「プレミアム市場」の上場基準については、以前は時価総額250億円以上とされていたが、2019年12月25日に示された「東証再編に関する報告書案」では、これが100億円になると公表された。
ここでドキドキしているのは、現在東証一部に上場しており時価総額がそんなに高くない会社である。なお、現在の東証一部の上場基準は時価総額では40億円以上なので、数は多くないが、時価総額が100億円に満たない会社は存在している。そういった会社は、失礼ながら一般的な知名度はほぼ無く(ヘタすると業界内でも知名度がない)、業績も給料パッとせず、社員が親戚に誇れることは「東証一部の会社に勤めている」ことくらいだったりするので、現在の東証一部と同格扱いとなる「プレミアム市場」に残れるかどうかは、割と切実な問題なのだ。
この時価総額基準については、東証再編のスタートが500億円で、その後250億円まで緩和され、今回100億円まで落ちてきた(流石にこれ以上落とすと、今の基準と変わらなくなるので「再編」にはならないだろう)。100億円にまで緩和されたことによって大半の現東証一部の会社は自動的にプレミアム市場に移り、それ以下の会社はスタンダードに転落することになる。
・・・のかと思いきや、今回の報告書案では救済的に「経過措置」が設けられていた。
「市場第一部上場企業は、上場・退出基準に関する新たな時価総額(流通時価総額)に関する基準を必ずしも満たしていないとしても、プライム市場の選択を希望する場合には、より高いガバナンスについてのコミットメントを行う限りにおいて、当分の間、プライム市場への上場・上場維持を基本的に認めることが適当と考えられる」
時価総額100億円にも満たない会社にそんなに気を使ってどうするんだと思うかもしれないが、東証にとっては上場会社の納める上場賦課金は大事な収入源なので、小さな声(東証一部に残してくれ)にも一応答えたことになるのだろう。
なお、ここでのポイントは2つある。
①「より高いガバナンスについてのコミットメントを行う限りにおいて」
より高いガバナンスとは一体何なのか一切書かれていないので、今後公表されるCGコード改訂と関係してくるのであろうが、高度なガバナンスの一例として有名な「英文で招集通知を作成する」とか、時価総額100億円もない会社が作ってどうするんだ、という気はしなくもない。
②「当分の間、プライム市場への上場・上場維持を基本的に認める」
当分の間、ということは、①の高度なガバナンスをコミットして、それでも一定期間内に時価総額100億円に到達できなかったらスタンダードに落ちる、という意味だと読んだ。実力はあるものの、ガバナンスがダメなので市場から評価されていない会社もないことはないだろうが、そんな会社はレアだと思うので、プレミアムは諦めて最初からスタンダードを選択する東証一部上場企業も出てくると予想する。加えて現在のTOPIX(東証一部全銘柄で構成)に該当する新インデックスは市場区分と切り離した運用が考えられているようなので、時価総額が低いのにプレミアム市場にこだわるメリットは殊更大きくないだろう。
なお、更なる詳しい骨子については、2020年2月に公表される予定で、上記の辺りも明らかになってくるのだろうが、個人的には市場に応じてガバナンスレベルを変えていくというのは大賛成。正直に言って社外取締役の人数が多いとか、英文の開示を充実させているとかによって企業の不祥事が減ったり、業績が改善するなどと、思うような気がしたりしない(明言は避ける)けれど、こういうのはスタッフを揃えたりコンサルを入れたりと単純にコストがかかるので、別に世界一を狙ったりせず、地元の雇用を優先しながら地銀とタッグを組んでぼちぼちやっているようなメーカーとかは、最低限の会社法が求めるガバナンスで良いと思う。
<参考>
市場構造の在り方等の検討(日本証券取引所HP)
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/market-structure/index.html
金融審議会「市場構造専門グループ」(第6回)議事次第(金融庁HP)
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market-str/doc/1224/20191224.html
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