2020年2月6日木曜日

純粋持株会社における子会社からの配当政策

3月末決算の上場会社にとって、そろそろ考え始めなければならないのが、剰余金の配当である。すでに決算短信等で配当予想は開示しているので、基本的にはそれに沿って配当すれば良いのであるが、当初の予想より業績が悪くなりそう、もっと言うと赤字転落しそうな場合は色々と考えなければならない。

中でも面倒なのが子会社からの配当で、いつ、いくら、どうやって取るのか、純粋持株会社を例に考えてみた。


<純粋持株会社は上場企業と想定>

純粋持株会社は自社では稼ぐ力がないので、株主に配当を行うか否に関わらず、最低でも自社の販管費等を賄うために、子会社から配当を吸い上げる必要が生じる。

また、純粋持株会社(何とかホールディングス)は証券取引所に株式上場している会社が多く、その多くは3月決算会社であるので、 3月末決算の上場会社と想定する。

<検討事項> 
  1. そもそも今年度、持株会社の株主に配当を行うのかどうか
  2. 持株会社内に利益剰余金がない場合、その他資本剰余金から配当するのかどうか
  3. 利益剰余金による配当を行う場合、子会社からいくら配当を取るのか

最低でも上記3点くらいは配当を行う前に検討しなければならない。また、前述の通り、株主には配当しなかったとしても、最低でも自社の販管費を賄うため、子会社からその分の配当を吸い上げる必要はある。

余談だが、某外資系のアナリストが「日本は配当の有無と株価感応度が異常に高い」と言っていたので、減配したり無配にするならば、それ相応に市場から反応を受けることを覚悟しておきたい。


<子会社から公平に配当を取るために>

持株会社と事業会社の関係性を考える上で、「企業グループの内部留保はすべて持株会社で集約すべきである」、という考え方もある。そうすることによって、グループ経営のコントロールタワーである持株会社がより有効的に会社資源を活用することができる(投資ができる)という考え方だ。その場合は、子会社の決算時の利益はすべて親会社に配当することになる。

しかし、実際に持株会社がそれほど強い権限を持っていないケースもある。例えば、元は一事業部門だった組織がスピンオフされた上で、「子会社として独立させたのだから、自立してやっていけ」と、持株会社から突き放されている場合などだ。親会社が自立してやっていけというなら、稼いだ金の投資も自分らで決めさろ、と反発される可能性は大いにある。従って、子会社からの当期利益はすべて配当として取れないケースも存在しうる。

「子会社から一律で〇割の配当を取る」等、特に法律で決まっている指標はないので、指標は任意となるが、上記のような事情にも鑑み、子会社間で納得感がある明確な指標は必要。BSの剰余金だけ見て一律に決める考え方も無くはないが、その年の見込(又は前年実績)の利益から一律〇%としたり、土地を売却した等の特別利益は全て吸い上げる等のほうが無難かと思われる。


<過去に利益剰余金のマイナスが発生していた会社の留意点>

過去、赤字が累積したことで「その他利益剰余金」がマイナスになった結果、「その他資本剰余金」から振替を行う「損失処理」を行った子会社の配当に関しては、少し考慮が必要である。損失処理を行った事業年度以降に積み上がった利益剰余金は、BS上は利益剰余金だが、果たしてこれを配当することが、「利益からの配当」と考えてよいのか、という視点である。考え方の一つとして、「過去に利益剰余金の損失処理で振り替えた額を上回るまで利益剰余金が積み上がるまでは、その子会社から配当は取らない」ことも、運営としてはあり得るだろう。


<中間持株会社がある場合のスケジュール調整>

利益剰余金の無い中間持株会社がある場合、スケジュール調整に少し工夫が必要となる。持株会社(親会社)が3月末決算会社である場合、当然ながら3月末までに子会社からの配当が必要となる。一方で、配当は最終事業年度にかかる決算で判定するため、中間持株会社には十分な剰余金がないケースが多い。

こういったケースにおいて、会社法では臨時計算書類を作成する(臨時決算を行う)ことで、最終事業年度末日以降の期間損益を分配可能額に算入することが認められている。従って、中間持株会社は前月(今回のケースでは2月末)までに子会社から配当を受けとり、その配当を受けた後に臨時決算を行って臨時計算書類を作成、その時点での「期中の利益」として「分配可能額」を確定させる作業が必要となる。

※ 分配可能額の計算は結構複雑なので、経理部門に任せるのがベター。目安としては以下の式で簡易に算出することは可能。

▪️分配可能額(目安)=その他資本剰余金+その他資本剰余金−自己株式(簿価)

剰余金の配当には株主総会の普通決議が必要なので、子会社は臨時株主総会の準備が必要となる。 配当スケジュール例(案)は以下の通り。

<スケジュール例> 中間持株会社が3月末に配当を行いたい場合








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