2021年3月8日月曜日

労働法の基本を勉強

労働法の基本セミナーに参加し、募集時の留意点から最近の働き方改革関連法まで幅広く学習してきた。以下、特に講師から強調された部分を中心に紹介。 (働き方改革関連法に関しては前回まとめたので、今回は割愛
 


うつ病等の病歴調査
うつ病の病歴があることを隠して採用募集に応募し、入社後に発症するケースが増加している。事前に病歴調査は可能か。行政は採用差別につながるとして慎重な対応を求めているものの、判例(B金融公庫事件:東京地判 平成15年6月20日)では採用時に会社が応募者に対して行う健康診断の必要性が認められている。従って、エントリーシート等に病歴の有無を記載する欄を設ける、面接で質問する等で確認することは可能である。
 
内定取り消し
内定の取り消しは採用後の解雇より緩やかに認められると勘違いされているが、実際は内定取り消しもなかなか認められない。採用内定とは「始期付解約権保留付労働契約」であり、雇用契約が成立していると評価されることから、大学留年など内定者自身の特有の事由での取り消しは可能だが、人員整理や能力不足といった会社の事情による取り消しは社員解雇と同程度の制限がかかる。グルーミー(陰気)な印象であることを理由とする採用内定取消では、通念上相当とは是認できず、解約権の濫用にあたるとされた判例もある(大日本印刷事件:最高裁 昭和54年7月20日)。
なお、職業安定法施行規則改正(平成21年1月19日施行)では、採用内定取り消しを行った企業名が厚生労働省HPで公表されることとなっているが、その該当事由の一つに「2年以上連続で取り消した場合」がある。これは、例えば新型コロナウイルスの影響のような経済的事情によるものだったとしても、2年連続で取り消しを行えば公表されるということ。企業名の公表は、採用における企業イメージのマイナスに大きくつながるため、一方的な内定取り消しではなく、内定者とは合意の上で「内定辞退」をしてもらうことが望ましい。
 
試用期間の注意点
「試用期間」とは、一定の試験的な期間を設け、その期間中に勤務態度、能力、技能、性格をみて、正式に採用するかどうかを決定する制度である。では、能力不足を理由に本採用を拒否することは可能なのか。これは、「採用面接時に会社が期待している能力を具体的に説明しており、期待された能力を著しく欠く場合」、とされている。中途採用においては、面接時にこの「期待している能力」を明確にしていないケースが多く、特にシステムエンジニアのような採用では、スキル表にチェックを付けて雇用契約に添付する形が望ましいだろう。 また、試用期間を6カ月のような長期間に設定している会社もあるが、長くすればするほど、その期間は能力を見る期間と解釈される。原則として試用期間満了までチャンスを与えることが必要となるため、避けた方が良い。
 では、試用期間(3か月間とする)を何のための期間と考えるべきか。これは期待された能力の確認期間とするべきである。 

 ・ 1か月目:能力を見る期間(能力があればOK)
 ・ 2か月目:能力がなければ、その旨を注意する(それで改善すればOK)
 ・ 3か月目:改善が見られなければ退職勧奨を行う

上記プロセスを経れば、能力の無かった社員には退職勧奨しやすく、合意を得られやすい。
 
不利益変更の許容範囲
賃金カットを行う際、どれくらいの割合であれば不利益変更が許されるのか。実務的には10%まで、とされており、これ以上となると合理性が認められにくくなる。30%の減額は倒産寸前の会社でも非常に困難だとされている。なお、本件は業績不振に伴う賃金カットだけではなく、成果給導入による賃金変更も同様であり、導入による賃金減額が10%を超える場合は、個別で合意が必要。もし裁判で争うこととなった場合、「高度の必要性に基づいた合理的な内容(大曲市農協事件:最判昭和63年2月16日)」を具体的に説明できなければならない。
 
名ばかり管理職と未払い残業代
日本マクドナルド事件(東京地判平成20年1月28日)において、管理監督者を①企業経営全体への関与、社員の採用権限があるか ②遅刻欠勤等での賃金カットが無いか ③管理監督者ではない従業員と年収が逆転していないか(最低700万円以上)、の要素を総合的に考慮して判断するとされたが、裁判まで発展するケースでは、ほぼ企業側が負けており未払い残業代が高額化する傾向にある。一方で、労基署は管理監督者の条件を判例より甘く見ており、①アルバイト採用権限があるか(企業統治関与は不要) ②マネジメント業務の割合が50%以上か ③年収が従業員より低くても500万円はあるか、をチェックしている。企業の労務担当者としては、裁判まで勝てなくても、労基署の基準をディフェンスラインとして管理職の条件を整えるべきであろう。 



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