2016年4月17日日曜日

田児賢一(バドミントン)と違法カジノ問題について思う

今月、違法カジノ問題で揺れに揺れた日本バドミントン協会。今日は、この違法カジノ問題での主犯とされる田児賢一について思うところを書きたいと思うのだが、その前に少しだけ日本バドミントン協会と桃田賢斗の関係について触れておきたい。


日本バドミントン協会と桃田賢斗の関係

日本における「バドミントンはマイナースポーツ」という位置からの脱却には、オリンピックでメダルを取ること、それも男子シングルスのメダルが絶対視されていた。その中で、2015年に日本人(男子)として初となる国際大会スーパーシリーズ(SS)のシングルス優勝、それも複数回優勝した桃田賢斗には、バドミントン協会及びその関係者から絶大なる期待が寄せられていた。桃田は2015年末の全日本総合で、前年2014年に全日本総合を優勝した佐々木翔を圧倒的な力で破って優勝。そして、直後にドバイで行われたスーパーシリーズファイナルでも優勝し、桃田賢斗は名実ともに日本歴代最強のシングルスプレイヤーになった。今年2016年に入ってからは、全英OPこそベスト8止まりだったものの、その後のインドOP(SS)であっさり優勝し、リオデジャネイロオリンピックでは、余程のことがない限り、3位は固いと考えられていた。かつて無敵の強さを誇った中国のリン・ダン(北京・ロンドンオリンピック金メダル)やマレーシアのリー・チョンウェイ(北京・ロンドンオリンピック銀メダル)も最盛期は過ぎており、その他には安定して上位にくる選手はいない状態であったことからも、桃田が金メダルを獲る可能性も十二分にあった。

そこに来て、あの違法賭博問題である。そりゃ、銭谷専務理事も泣くだろう。前述の通り、日本バドミントン協会はマイナースポーツからの脱却のため、国際大会で勝てる選手の育成を掲げて、ジュニア世代の強化に励んできた。そして、その結果第一号が桃田であり、彼は高校時代にジュニア世界選手権で日本男子初の優勝を果たした。本人に自覚はゼロだったようだが、日本バドミントン協会が手に塩を掛けて大事に育ててきた金の卵だったのだ。銭谷専務理事を含めたバドミントン協会関係者は、この桃田のオリンピックでのメダルを契機に日本でのバドミントン人口が増え、バドミントンが有る程度メジャーなスポーツとして認知される、そんな夢を描いていただろうが、一瞬にしてそれが消え去ってしまった。それどころか、バドミントン選手に対するダークなイメージを与えてしまった。日本のバドミントンという競技へのマイナス影響は計り知れないものがある。

その違法カジノに桃田を誘ったとされるのが、桃田の前にシングルスのエースであった田児賢一だ。記者会見では涙を流して「桃田にチャンスを」と先輩らしい懇願をしていたが、本人はNTT東日本を解雇。カジノへの常習性や金額の多寡からも悪質性が高いと判断されたのであろう。


田児賢一とは

田児賢一(バドミントン)と違法カジノ問題
※2016年4月8日記者会見

さて、この田児賢一とは一体何者だったのだろうか。

多少なりとも競技としてバドミントンをしている人なら知っていると思うが、とにかく田児賢一のシングルスと言えば強かった。天才的なラケットワークと妙技とも言えるヘアピン、強烈なスマッシュ、そして独自のホームポジションからのフットワークとディフェンス力・・・田児は最初に全日本総合を制した2008年から2013年まで6連覇という偉業を達成しているわけだが、私は日本国内の試合において、田児が負ける試合をほとんど見たことがない。それくらい国内では無類の強さを発揮していた。辛うじて、彼に匹敵していたのは佐々木翔(トナミ運輸)くらいであり、その佐々木も田児には余裕で負け越しているであろう。そんな強すぎた田児は、お世辞でも素行の良いスポーツ選手ではないように見えた。

まず、彼が所属しているNTT東日本での実業団リーグ戦において、田児はほとんどチームメイトの応援をしない。年長者だからというのもあるだろうが、同じ実業団チームの日本ユニシスやトナミ運輸を見ていると、団体戦に出場している選手をみな一丸となって応援している。NTT東日本の田児だけは、座って退屈そうに見ているだけであった。最もそれが端的に表れていると思ったのが、2013年の全日本実業団選手権、男子決勝における和田周(今はジェイテクトに移籍)対、坂井一将(日本ユニシス)の試合におけるワンシーンだ。2ndゲームに和田がゲームポイントを取った際、非常に微妙なジャッジ(和田に不利)が行われ、当然ながらNTT東日本は全員ベンチから立ち上がって猛抗議した。しかし、田児はというと一人だけベンチに座ったまま、ニヤニヤしているだけ。つまり、彼にとってはチームが勝とうが負けようがどうでも良く、自分が勝てば良いと思っていたのだろう。

更に個人的に嫌だと思ったのが、実業団戦において佐藤翔治と組んだダブルスにおける田児の態度である。佐藤翔治と言えば、2003年から全日本総合シングルス4連覇、アテネと北京オリンピックにはシングルスで、ロンドンオリンピックには川前直樹との男子ダブルスで出場しており、日本バドミントン界で一時代を築いた英雄的存在だ。ルックスもイケメンであり、彼に憧れてバドミントンに励んだ学生も多かった。その佐藤翔治と実業団の試合でダブルスで組んだ際、田児は佐藤がミスする度に睨むのだ。田児がNTT東日本に入った時点で佐藤翔治の最盛期は過ぎており、昔のようなキレはなかったのかもしれないが、それでも一時代を築いた「先輩」に対して、その態度はないだろう。(田児賢一はシングルスプレイヤーであるが、実業団の団体戦ではオーダー上、ダブルスで出場することもあった。)

先輩に対する敬意もなく、同僚(チーム)に対する応援もしない。人間的に大いに問題がありそうな田児であったが、まだ勝っている間は良かったのだ、勝っている間は。


歯車が狂い始めた2014年

歯車が狂い始めたのが、2014年末に行われた全日本総合選手権。前人未到の男子シングルス7連覇がかかったこの大会で、田児は何とこれを棄権した。理由は足首の捻挫。しかし、私はこの時、非常に違和感を感じたことを覚えている。なぜかと言うと、その棄権する直前の記者会見では堂々と「この後の世界選手権を見ているので」と語っていたからである(謙虚さゼロ)。突然負けるのが怖くなったのか、急に足首が疼きだしたのか、何が原因だったのかは分からないが、この全日本総合の棄権をきっかけに田児の転落はスタートした。報道によると2014年末から例の違法カジノに通い始めたようなので、自身のプレーに陰りが見えた心の隙間にカジノという誘惑が入り込んでしまったのかもしれない。なお、その2014年末の全日本総合ではライバルであった佐々木翔が優勝、桃田賢斗が準優勝した。

翌2015年、NTT東日本の後輩である桃田が国際大会で快進撃を始める一方で、田児は全く勝てなくなっていく。リオオリンピックを目指す上で国際大会で上位入賞してポイントを稼ぐことが重要になってくるが、全く上位に入れない。初戦負けどころか予選負けすることも増えてきた。そして、日本代表を自ら辞退。2015年末の全日本総合にも良く分からない理由で出場せず、長い間「1位 田児賢一」で固定されていたシングルス日本ランキングも2位、3位と順位を落としていった。「もう田児は終わったのか」多くのバドミントン関係者は考えたと思うが、2015年のバドミントンマガジンのインタビューで田児はこう答えていた。

「本当にバドミントンをするために生まれてきた人間なら、まだ終わらないと思う」

当の本人はこの時期には既に違法カジノにどっぷりハマっていたわけだが、この言葉の通り、田児はオリンピック出場へ最後の望みをかけるべく、果敢に国際大会に出場するようになる。何とか糸口を見つけようとあがいているように見えたが、予想だにしないところで選手人生が終わりを迎えたのはご存じの通りである。


暴力沙汰も噂になるバドミントン選手

ちなみに、一部の報道によると田児はNTT東日本の同僚(選手)を違法カジノに誘った際、断る後輩には暴力を振るっていたらしいが、実は昨年には日本体育大学バドミントン部の選手が他大学の学生の顔面を蹴るなどの行為を行ったことにより、活動を自粛させられている。NTT東日本は実業団の名門であり、日体大もバドミントンでオリンピック代表選手を何名も輩出している名門大学である。バドミントンというのはマイナーな割に暴力行為が日常的なダーティな世界だったのかもしれない。それらの選手の大半を輩出している埼玉栄高校の監督は、一度指導を考え直した方が良いのではないだろうか。(田児賢一も埼玉栄高校出身)


今後の日本のバドミントン

さて、今後の日本バドミントンについてであるが、まず女子は単複ともに世界選手権で上位に入賞する有望な選手が揃っているので(シングルスの奥原望、山口茜、ダブルスの高橋・松友)、結果を残すことで、田児・桃田の賭博問題で暗くなったバドミントンのイメージを払拭してもらえたらと思う。

一方、男子は今期で既に引退を表明している佐々木翔(トナミ運輸)に期待したい。佐々木は前述の佐藤翔治と同世代で、関東第一高校の時代から勝てず(タイトルが獲れず)、やっと2007年に全日本総合を優勝したかと思えば翌年から田児賢一に圧倒され、非常に不遇の時代が長かった選手である。ロンドンオリンピックではベスト8で中国のリン・ダンに負けたが、私はあの最後までシャトルに喰らいつくプレーには感動を覚えた。不遇の時代を乗り越えてきた佐々木翔が有終の美を飾ることを期待して、ここらで書くことを終わりにしたい。

<追記>
佐々木翔について書きました。

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