労働関係法についてセミナーを受けてきた。就業規則から労働組合まで幅広く解説を受けたが、トピックスとして意外だった内容をいくつかまとめておきたい。あまり労務関係の法律は仕事で必要ないので勉強していないが、普段の仕事と直結しているだけに、なかなかためになるセミナーだった。
・労働契約上と労働基準法上の労働時間
労働契約上の労働時間は就業規則における始業時から終業時までの時間から所定の休憩時間を除いた時間で、一般に「所定労働時間」と呼ばれる。一方、労働基準法上の労働時間(労働基準法32条)は、就業規則などの定めに左右されず、客観的に決まるものであり、使用者の作業上の指揮監督下にある時間、または使用者の明示、または黙示の指示によりその業務に従事する時間と考えられている。この2つの労働時間は必ずしも一致しないため、所定労働時間外の時間が労働基準法上は労働時間とされる場合がある。
作業の準備・後始末も労働時間か(三菱重工業長崎造船所事件)
「労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい…労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」
「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業者内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは…それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される」
「実作業の終了後も、更衣所等において作業服及び保護具等の脱離等を終えるまでは、いまだ上告人の指揮命令下に置かれているものと評価することができる。」
・公益通報者保護法
内部告発行為を保護する立法として、公益通報者保護法(公通法)が制定された。この法は、労働者が不正目的ではなく、通報対象事実について公益通報したことを理由とする解雇・労働者派遣契約解除の無効、降格、減給その他不利益取扱いの禁止を定めている。
ただし、全ての告発者がこの公通法によって法的に保護されるというわけではない。国民の生命、身体、財産の保護を目的とし、社会に深刻な打撃を与える犯罪など461の法律(銃砲刀剣類所持等取締法など)に触れる犯罪行為を告発した公益通報者のみが保護の対象となる。よって、上司からのセクハラを告発したとしても、強制わいせつ罪になる場合は別として、公通法で保護されることはない。
また、公通法は、労働者の告発行為で従来判例法理によって保護されうる行為の一部について、判例による処理では保護されるか否かが明確でない問題点に対処するために、保護に範囲を限定して明確化したものである。従って、公通法の保護の対象とならない告発行為も従来の判例(労働基準法の解雇法理等)の枠組みによって保護されうることは、当然に予定されている。
・使用者の労働者に対する安全配慮義務
かつては、安全配慮義務といえば危険な作業に従事する労働者を事故から守ることを想定した配慮義務であったが、現在は労働者が健康を害さないための「健康」配慮義務へと拡大された。
裁判例における健康配慮義務(電通過労自殺事件)
使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う
・有給休暇の取得
入社して間もない頃、業務の多忙期に「明日有給を取っていいですか」と部長に聞いたところ、「ダメだ」と拒否されたことがある。これは適法なのか。確かに経営者側には「事業の正常な運営を妨げる」場合に有給休暇の取得を変更される「時季変更権」がある(労働基準法39条4項但書)が、実はこれは単なる業務多忙時期とか年末期にあたるといった理由のみでは認められない。
裁判例における事業の正常な運営を妨げる場合(新潟鉄道郵便局事件)
「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、労働者が年休を取得しようとする日の仕事が、その労働者の担当している業務や、所属する部・課・係など、一定範囲の業務運営に不可欠であり、代わりの労働者を確保することが困難な状態を指す
代替要員の確保が可能な規模の会社であれば、時季変更権は認められにくく、違法な時季変更権の行使だとみなされれば、会社側が損害賠償を受ける可能性もある。
最近では、退職願と同時に未消化の有給休暇をまとめて請求する労働者が多いが、これも「事業の正常な運営を妨げる場合」でないと拒否することは難しい。
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