去年はやたらと取引先が倒産したので、債権の回収に関する条文を参照することが多かった。今年は昨年に比べれば取引先倒産は遥かにマシだが、ここで一度債権の保全と回収についてまとめておきたい。
・平常時の債権管理の必要性
2008年の倒産件数は1万3234件、3年連続の前年度比増加で、負債総額は13兆6709億2700万円。これは戦後5番目の高水準となっており、常に取引先企業の倒産を意識した備えが必要となってくる。なお、企業としての備えとは、以下のものが考えられる。
①取引を開始するための最低限の画一的なルール、与信管理を設ける(与信管理の標準化を)。
②経理・財務と連携して異常情報に気付く仕組みを作る。
③すぐに相談できる弁護士を押さえておく。
・取引相手方の調査、確認
直接調査(対象会社へのヒアリング)や間接調査(商業登記簿謄本の入手等)がある。商業登記簿謄で商号を確認する際は、会社法では類似商号規制廃止により、同一市町村で同じ商号が使用可能となったことに注意。
・担保の必要性
担保とは、債務者が債務を履行しない場合に備えて債権者に提供され、債権の弁済を確保する手段となるもの。債権者平等の原則により、債権額が一部しか回収できないおそれがあるため、債務者の信用に多少とも不安がある場合は担保を取る必要がある。
※債権者平等の原則:債権者が他の会社にも債務を負っている場合、債権の種類、内容、発生時期に関係なく、債権額に応じて按分された額しか回収できない。
・抵当権(民法369条)
抵当権は必ず現地確認をする。抵当権の担保として供された土地の上に建物がのっている場合もあり、その際は建物とセットで抵当権を設定する必要がある。また、先順位の抵当権者がいるときでも、後順位の抵当権者に回ってくることも在り得るので諦めないこと。
・時効の中断(民法147条)
進行する消滅時効を巻き戻す(改めて新規に時効が開始する)ことができる制度。時効の中断事由には次のようなものがある。
①請求:訴訟を起こして請求をすること(裁判上の請求)。毎年「請求書」を送ることではない。
②催告:相手方に請求書を送付すること。これ自体には完全な時効の中断の効力はないことに注意。催告を行ってから6ヶ月以内に裁判上の請求等を行わなければ、時効は中断しない(民法153条)。尚、催告を行う場合は、「内容証明郵便」を送付することが一般的。この場合も効果は6ヶ月しかないが、後に裁判になった場合、大きな効果を持つ。
③承認:債務者が債権者に対して債権が存在することを認めること。これが最も一般的かつ効果的な時効の中断方法で、時効期間経過後でも債務承認があれば足りる(民法156条)。但し、連帯保証人が債務承認しても、時効中断にはならない。
・倒産までの過程と債権の回収
債権を持つ企業に支払不能や支払停止といった破産原因が起こると、前述の「債権者平等の原則」が働くため、債権の回収が非常に難しくなる。更に倒産されてしまうと、実際に債権回収はほぼ不可能となる。債権を回収する場合は、破産原因の起こる前の信用不安の状態で早期に回収・もしくは担保取得をする必要がある。
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