平成16年、18年に金融商品取引法の改正が行われ、市場内外の取引を組み合わせた株式取得のような脱法的取引の規制や、TOB開始後のルールが定められた。これに伴い、「金商法の整備」を理由に買収防衛策を廃止した企業もある。しかし、
①TOB開始前における法規制はない
②TOB開始は原則止められない
③市場内での株の買い集めへの法規制はない
④市場内外での買付規制は3分の1までは原則及ばない
といった問題が依然として残っている。そして、買収防衛策は①から④の対応に有効である。
買収防衛策の継続及び廃止状況
2010年7月末までに買収防衛策を開示した企業は累計613社、廃止・非継続を公表した企業は累計71社。廃止事由は経営統合やMBOにより買収防衛策が不要となったものが多く、実質的な自主廃止企業は39社、実質的廃止率は全体の5%程度と思われる。また2010年に買収防衛策を新規に導入した企業は4社に留まったが、現在、新規導入を検討している企業が増加しており、2011年は増える見込みである。
企業買収を巡る動向
クロスボーダーのM&Aの最近の特徴は、中国が買い手の主体となってきたこと。買収件数では米国を抜いて中国がトップとなった(但し、金額ベースでは米国が依然トップ)。現時点で中国による国外企業への敵対的M&Aは、中鋼集団による豪鉄鉱山開発ミッドウエストに対する買収提案のみだが、今後増えていく可能性はある。
投資比率が上昇傾向にあるアクティビスト系投資ファンドとして、シルチェスター・インターナショナルやエフィッシモ・キャピタルなどがある。エフィッシモは旧村上ファンドの残党と呼ばれ、買収目的ではなく、親子上場している子会社の株式を買い占めて、親会社に買い取らせる等の投資スタイルで活動している。
関連する当局や機関投資家の動向
平成20年6月30日に企業価値研究会(経済産業省所管)から企業買収防衛に関する最新のガイドライン「企業価値研究会報告書-近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方-」が公表され、買収防衛策の規範として定着しつつある。
海外の機関投資家は買収防衛策に関しては原則反対。一方で、国内の機関投資家や企業年金連合会は原則賛成だったが、上記「報告書」も踏まえ、議決権行使が厳格化の傾向にある。
なお、今年買収防衛策を更新する場合は、以下の点に注意したい。
情報提供期間の設定
買収防衛策のルールにおいて、買収者に対して要求する情報提供に係る期間(30~90日間)の定めを設ける企業が増えている。昨年度買収防衛策を更新した206社のうち、情報提供に係る期間を定めた企業は28社。
時間・情報や交渉機会の確保を口実に、買収を断念させることを目的として、買収者に対して延々と情報提供を求めることや買収提案の検討期間をいたずらに引き延ばす等の恣意的な運用は許容されるべきではない。「企業価値研究会報告書-近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方-」(平成20年6月30日) |
有事における株主意思の確認方法の見直し
いわゆる独立委員会より株主総会開催の諮問があった場合、取締役会は特に協議を経ることもなく、株主総会を開催するスキームの防衛策が多く見られる。この点が「企業価値研究会報告書-近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方-」の内容を踏まえられていないため、修正を要する。
善管注意義務を負っている被買収者の取締役が、買収提案が株主共同の利益に適うか否かに関する第一次的判断を自らは回避し、形式的に株主総会に買収の是非に関する判断を丸ごと委ねて、自己を正当化することは、責任逃れとさえいうことができる。「企業価値研究会報告書-近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方-」(平成20年6月30日) |
企業価値の源泉の更新
会社グループの企業価値の源泉や企業価値向上に向けた中長期的な取組みについて、防衛策導入時との現在の変更点につき検討をする必要がある。
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