商事法務№2023を読んだ。今号で気になったのは、三井住友信託銀行の法務コンサルタント木村氏と矢田氏による「会社法改正法案と社外取締役にかかる実務対応」である。
昨年末、会社法改正案の内容が明らかになり、その目玉項目の一つとなっていたのが、社外取締役を設置していない会社が株主総会で「置くことが相当でない理由」の説明義務が生じたことであろう。
こういった開示義務は事実上の社外取締役設置の強制とすら言われており、現時点で社外取締役を設置していない会社の担当者は、今年の株主総会で選任しなければ、来年の総会で何等かの説明義務が生じることとなり、頭を悩ましていることだと思う。
そろそろ、その「相当でない理由」の記載方針案が商事法務で出てくる頃だろうと予想していたころ、ついに出てきたのが本論文である。改正法案の内容を踏まえ、論理的に記載方法、内容を組み立てられており、最終的には各社の判断となるであろうが、一定の参考にはなるだろう。
さて、ここからは私見であるが、この「相当でない理由」の対応ハードルが高いと感じる別の理由がある。それは、日本のリーディングカンパニーと呼ばれる会社が、ほぼ社外取締役を選任済みであり、この問題に関しては対応が不要であるということだ。
これまでもビジネス関係の法律が変わる度に、法文に沿ってどう解釈し、どう実務的に無難に「落としどころ」を探っていくのか、企業の実務担当者は頭を使って考えてきたわけだが、そういった思考錯誤を行ってきたのは、当然ながら日本を牽引するエクセレントカンパニーの実務担当者たちであった。そこで考えられて捻り出されてきた案を、株主総会担当者たった一人しかおらず、30年以上東証2部に上場しているような会社はコピペさせてもらって切り抜けてきた。
それが前述の通り、これまで頭を使ってきたエクセレントな担当者たちが、今回の「相当でない理由」には対応不要ということで頭を使わず、これまでのような「良い案」が出てこない状況にあるのだ。もちろん、この商事法務の論文を書いたような証券代行業務を行う信託銀行や弁護士事務所は何か考えるであろうが、それぞれが当事者ではないので(個別にコンサルティングフィーでも貰わない限り)必死に考えるようなことはないだろう。
よって、この「相当でない理由」を考えるのは相当難しかろうと思うところであるが、よく考えてみると、現時点で社外取締役を入れていない企業の大半は、安定株主多数で、はっきり言って上場している意味が薄い斜陽企業が多いように思われる。「相当でない理由」の論理が多少おかしくても株主総会では可決されるであろうし、まぁ、株懇などの「変な事例集」で自分のライティングした文章が晒される辱めを受けるくらいだ。
余談だが、冒頭の木村氏と矢田氏とは、合併する前の住友信託銀行の時に大阪でお会いしたことがある。商事法務にご寄稿されるくらいなので、合併後もバリバリ活躍しているのだろうな。いつかまたお会いしたいものだ。
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