2017年1月27日金曜日

中小企業を買収する際の法的留意点

久しぶりに法務ネタで1記事書いてみたい。ネタ元は新年祝賀会で弁護士に聞いた中小企業のM&Aを巡るトラブルの話。企業法務の世界では割と有名な事案らしいが、僕にとっては新鮮な話だったので、思考整理のためにまとめておきたい。


「団塊の世代」の経営者(2017年現在67~69歳)が引退ラッシュを迎えているが、どこの会社も後継者不在により、M&Aコンサルや金融機関等に会社売買の案件が多く持ち込まれている。

こうした「ある程度社歴のある中小企業」を買収する際、気を付けなければならない点が2つある。


1.詐害的会社分割で設立された会社ではないか

不採算事業を抱える分割会社(下記図表でA社)の優良事業のみで新会社(B社)を設立した後、当該株式を不当に安い価格で第三者(C社)に売却し、分割会社の債権者を害する詐害的会社分割が、一時頻発した。こうした行為は社会問題にもなったため、平成26年改正会社法により、害される残存債権者による債務履行請求権が新設されている。

ここで注意しなければならないのは、買収提案のあった会社が詐害的会社分割で売却される会社の株式ではないか、ということである。安いと判断して企業買収したところ、元の債権者とトラブルになる事例が発生している。事業としては歴史があるにも関わらず、設立の日が浅い会社等は注意した方が良いだろう。

【図表:詐害的会社分割のケース】

会社法 第3版 (LEGAL QUEST) P421の図表9-14を参考に作成


2.名義株主が存在していないか

かつて株式会社を発起設立する際、最低7名の株主が必要であった(現在は1人でも複数でも良い)。この際、会社設立に際して名前だけ貸した名義株主を用いた中小企業が多くあり、また中小企業は株主名簿を更新していないことが常である。つまり、本人すら自分が株主と認識していない人間が株主として存在している可能性があり、買収に際する手続のためにコンタクトを取るとトラブルが起こることがある。こうした後々のトラブルを避けるために、名義書換は買収前に処理しておく必要がある。

こうした中小企業の買収案件のトラブルの背景には、悪質なM&Aコンサルタントが存在しているという。安いと思って安易に買収したら後々まで続くトラブルに繋がりかねないので、たとえ中小企業であっても企業買収は慎重に進めるべきであると、改めて感じた。

(参考文献) 

会社法 第3版 (LEGAL QUEST)
  • 作者: 伊藤靖史,大杉謙一,田中亘,松井秀征
  • 出版社/メーカー: 有斐閣
  • 発売日: 2015/03/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

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