さて、4月に入ったということで、そろそろ3月末の株主名簿も判明し、6月の株主総会への準備モードへと移る総会担当者も多いことだろう。
今日は、某弁護士事務所が主催のセミナーに参加してきたので、メモった内容を忘却録として記す。
<総会の状況>
2000年以降、年々株主総会の集中率は低下してきていたが、45%前後となった一昨年頃から横ばいの傾向が見られる。一方で、第2集中日とされる日が分散されるようになった。なお、今年の株主総会は、集中率が高い順に6月27日、26日、25日、21日と予想されている。
株主総会のビジュアル化を実施する会社は年々増加しており、既に8割近い会社が何等かの対応を行っている。一方で、総会後の懇親会は減少傾向にある。
<出席株主数と発言数の増加>
ここ10年間の株主総会(6月総会)を分析すると、出席株主数及び発言(質問)数において一貫して増加の傾向が見られる。特に株主の発言(質問)は顕著で、昨年は全体の7割近い上場会社で行われており、株主総会担当者及び議長は、株主総会では株主から何らかの発言があり、それが通常であると考えて間違いはない。
なお、想定以上の株主が株主総会に出席してしまった場合は注意が必要。来場者数が多すぎて、会場に入場できない株主がいるにも関わらず、決議を実施した場合、株主総会決議取り消しの原因ともなるので、例年よりも多い株主の出席が予想される場合は、第2会場の確保等、最大限の配慮が必要となる(いざという場合は、立ち見でもいいので、会場に収容することが大切)。
<招集通知の早期発送>
早期発送が更に進んでいる。2009年では発送日と総会日との間に15~17日を空ける会社が最も多かったが、昨年は18~20日を空ける会社が最多となった。
<今年の想定問答>
昨年決定された「会社法の見直しに関する要綱」は、施行時期は未定で今年の株主総会に直接的な影響はない。しかし、社外役員の要件見直しや、新設される監査・監督委員会設置会社への移行など、会社としてどう対応を考えているのか株主から聞かれる可能性はあるので、想定問答を準備しておくことが望ましい。
一方で、現在経済情勢が大きく変わりつつあり(円安等)、株主の経営に対する関心は例年以上に高まっていると思われる。また、昨年は一般株主からもコーポレート・ガバナンスに関する質問が多く行われたが、その傾向は今年も続くと思われる。よって、今年の株主総会は想定問答を例年以上に時間をかけて作成すべきであろう。
<想定問答集の説明義務と運用>
当期業績につき、セグメント別・連結子会社別に「足を引っ張っている事業/子会社があれば業績を教えて欲しい」との質問が多い。招集通知で開示していない範囲であれば、株主総会の場でどこまで答えて、またその事業/会社に関して今後どう考えているのか回答を想定しておくことが望ましい。
また、前述の通り、現在円安が進行しており、業績予想は株主の関心が高い事項である。このまま円安が進んだ場合、業績に与える影響などが質問される可能性が高く、どう回答するのか十分検討しておく。
なお、株主総会の場で第1四半期決算(決算短信)の質問もたまに行われているが、当然ながら答える義務はない。「業績の予想の範囲内で推移している」等、無難に回答する。
有報で記載が求められるものの、会社法上の招集通知では記載が要求されていない事項(投資有価証券やキャッシュフロー計算書等)について質問された場合は、概要(主要な保有銘柄等)を回答し、詳細部分まで回答する必要はない。
<WEB開示の増加>
提供書類のWEB開示を昨年利用した会社は全体の25.5%で年々増加傾向にある。開示対象としては「個別注記表」「連結注記表」が圧倒的に多く、買収防衛策を導入している場合は、「株式会社の支配に関する基本方針」をWEB開示している会社が多い。
WEB開示した書類の総会当日対応については、開示箇所を交付(22.9%)、開示箇所を会場に備置(50.9%)、完全版を交付又は備置(12.1%)、対応していない(9%)となっており、何らかの方法で交付・備置を実施している会社が多かった。但し、完全版を配布した場合は、送付した招集通知とページに相違が生じ、希望者のみに配布した場合等は総会進行シナリオに対応が必要となることを留意する(実務的には完全版の配布は避けた方が良い)。
<復興特別所得税>
2013年1月1日から、所得税額の2.1%が復興特別所得税として課税されることとなった。これに伴い、配当にかかる税率も所得税7%に2.1%を追加した0.147%が課税されることなり、これに住民税3%を追加した10.147%が今年の配当にかかる税率となる。昨年までは税率は10%だったため、配当を受けた株主から問い合わせが来る可能性がある。
<独立役員に関する情報開示>
東証では独立役員に異動がない場合でも、社外役員の選任(再任)議案が付議される場合は、総会の2週間前までに、従来の届出書より開示加重要件が追加された新様式を提出することが必要となった。また、努力義務ではあるものの、招集通知に社外役員に関して独立役員に指定されている明示等の要請があった。但し、これらは大証からは特に通知が行われていない(つまり、大証単独上場の会社は、今年の6月総会では対応不要)。
<買収防衛策>
買収防衛策は微減傾向にある。特に株価が上昇局面にあると時価総額の増加=被買収リスクが低下するため、新規導入や更新には反対票が多く集まる可能性が高い。しかし、見方を変えると、買収防衛策の賛成率が低い会社ほど被買収リスクは高い会社であり、導入を検討する価値はある。また最近の事例としては、シンガポール塗料メーカーによる日本ペイントTOB(その後撤回)や、エフィッシモ(旧村上ファンド出身者)によるセゾン情報システムズ株式買い集め(27%で防止)など、買収防衛策は一定の効果が上がっているので、特に現在導入している場合は安易に廃止しない方が良い。
<株主提案の問題>
昨年、野村HDでは1名の株主から多数の株主提案が出され話題になった。議決権が300個以上あれば誰でもできることであり、どこの会社でもこういう事態が起こる可能性があることは覚悟しておく必要がある(なお、この野村HD株主は今年の株主提案をtwitterで公開している)。野村HDほど話題にはなっていないが、HOYAでは3年ほど前から毎年、同一株主(1名)から多数の株主提案を受けており、昨年は63個の株主提案全てを参考書類への記載を拒否したことから、裁判にまで発展した。
<会社法改正に関して(1)子会社(監査役会設置会社)の社外監査役>
上場していない子会社(監査役会設置会社)の社外監査役に親会社出身者を選任している会社が多いが、会社法の改正で親会社出身者が子会社の社外監査役に就任することができなくなる。そこで、子会社の会社形態を社外監査役の設置を必要としない監査役設置会社への変更を検討している会社が多い(らしい)。
<会社法改正に関して(2)「社外取締役を置くことが相当でない理由」>
上場会社が社外取締役を設置しない場合は、選任することが相当でない理由を事業報告書くことが定められた。これは実質的に社外取締役設置の強制義務化だと(脅しの)解説する学者もいるが、一方で「会社として社外取締役設置のメリットが見いだせないのであれば、それを正直に書けばいい」と主張する学者もいる。要は自社の株主が納得するかどうかが問題なので、「相当でない理由」にこだわる必要はない。
<会社法改正に関して(3)監査・監督委員会設置会社>
社外取締役を導入する際、いきなり導入するのではなく、外部有識者によるアドバイザリーボードのような組織を作って、その中から社外取締役を選ぶ会社もある。会社法の改正で新設される社外監査役を必要としない「監査・監督委員会設置会社」については、悪くないと考えている経営者は多い(らしい)。なお「監査・監督委員会設置会社」の名称は変更される可能性がある。