2015年3月14日土曜日

株主・会社債権者からの開示請求

会社法の定める株主・会社債権者からの開示請求制度の中で、実務で多く見られる計算書類等、会計帳簿等、株主名簿の閲覧謄写請求について少しまとめたのでメモ。

■計算書類等の閲覧・謄本請求権
計算書類等とは計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表)と事業報告、附属明細書、臨時計算書のことであるが、これらの閲覧請求の対象となる時間的範囲はいつまでか。1年限りなのか過去に何年も遡って閲覧に応える必要があるか。この点、会社法442条によると保存期間が「5年」と定められているため、5年分までということになる。但し、株主総会議事録の閲覧は10年間保存が義務付けられており(会社法318条)、株主総会議事録に添付されている計算書類等は(株主総会議事録の閲覧請求があった場合)当然提出しなければならない。
閲覧請求のできる債権者は金銭債権を有する者に限らず、不作為債権等、条文上はどの債権者も可能。また代理人・補助者による請求も禁じる規定があるわけではないので可能である。

■会計帳簿等の閲覧謄写請求
会計帳簿等の開示範囲については広義に解釈するもの(=非限定説)と狭く解釈するもの(=限定説)の論争があるが、旧商法時代の判例によると限定説が有力であり、会社法の下でも旧商法から条文の文言がほとんど変っていないことから限定説が有力であると思われる。
定款で閲覧等の拒否事由を定めることはできない。これは会社法433条2項に「株式会社は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができない」と規定されているからである。
株主が閲覧謄写請求訴訟を起こした後に訴訟条件である株式の保有100分の3を下回った場合、当該株主の原告適格はどうなるのか。この場合は2つのパターンが考えられ、株式を売却した場合は原告適格は失われる。しかし会社が増資等を行い、当該株主の株式保有割合の希釈化が行われた場合は原告適格は失われない、というのが通説である。但し、後者の場合も会社の増資等が正当な理由であれば問題ないという説も存在する。

■株主名簿閲覧謄写請求
株式会社は株主名簿を作成し、本店に備え置く義務がある。但し、株主名簿管理人がある場合は、その営業所に備え置くことになる。(会社法125条1項)
計算書類等とは異なり、謄本抄本の請求ではなく謄写の請求が行われる。謄本抄本の請求に会社がサービスで応えてしまった場合は、株主平等の原則(会社法109条1項)に反することとなる可能性があるので注意が必要。
株主総会に出席する株主のように、株主名簿閲覧謄写請求の代理人を株主に限定する定款を定めることはできない。株主総会の出席には総会屋問題があるが、株主名簿閲覧請求にはその恐れがないからである。

2015年3月7日土曜日

株主代表訴訟制度の経緯と問題点

実務家の視点から見た株主代表訴訟制度の問題点の解説を受けてきたので以下にメモ。

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株主代表訴訟とは株主が会社を代表して会社役員に訴訟を起こす制度である。

日本の株主代表訴訟制度は、戦後アメリカの制度をモデルが導入されたが、訴訟手数料が訴額に応じた負担(高額)であったため、ほとんど利用されていなかった。そこで、平成5年の商法改正で、提訴手数料を一律8,200円(現在は13,000円)とした結果、提訴件数の急増と提訴請求金額の高額化という現象が生じ、個人的な満足を得る目的等、本来の趣旨から逸脱した不当な訴訟が多く提起されるようになった。

提訴手数料の一律低減化により株主代表訴訟を活性化するという効果はあったものの、明らかに不当と思われる訴訟を防止するための原告適格を厳正化する対応を同時に実施しなかったという点に問題を残す結果となった。

また、株主代表訴訟の判決の効力が間接当事者である会社や一般株主に及ぶにもかかわらず、会社や一般株主の主張や意見を反映したり、一般株主を適切に代表した株主権の行使を保障した制度とも言い難いといった問題がある。

平成17年の会社法の改正においては、却下制度(会社法847条1項但し書)や不提訴理由書制度(同条4項)などの規定が導入された。しかし、却下制度は対象範囲が限定されていることに加えて、立証が困難であるという問題がある。不提訴理由制度は不提訴理由書が株主代表訴訟において如何なる効果を持つかが必ずしも明確ではなく、不提訴の判断を説明するという目的を超えて安易に開示を行うと、かえって会社に不利益をもたらす危険性もあることから、不提訴理由書の開示の範囲について実務的には簡素な記載に止まっている。

直近の判例の特徴は、まず最高裁等で高額の損害賠償(蛇の目ミシン事件583億円)が認容されてきていること。また、内部統制システムの整備義務(会社法)から、責任の認容対象者が拡大されてきており、取締役の責任が認められやすくなっている。訴訟の中には内部告発型のものが増加(ダスキン事件他)してきており、その場合は様々な社内内部資料が訴訟で使用されている。

株主代表訴訟の理論と制度改正の課題
著者 : 高橋均著
同文館出版
発売日 : 2008-11-01